2021-01-01から1年間の記事一覧
「『毒にも薬にもならない人畜無害の歌ばかり書いて』と自分はこれまで幾度も揶揄されてきた。だが、あえて言葉を返すのなら、皮肉ではなく事実として、何者も傷つけない無害の歌を書くなど、本来は途方もなく難しいことだ。」 いまだにTV局の玄関先で入館許…
この著者のことは高橋源一郎のラジオにゲストとして話していて、その声をまず知った。達者な日本語で親父ギャグを連発。本当に日本語の運用能力が凄い。そして話を聞いていると、なんと眼が見えないのだと。しかも、日本語で本を書いたのだと、世の中には凄…
著者は2014年に亡くなられている翻訳家で、この本は帰らぬ人となったあとにご本人のエッセイや後書きをまとめたものだ。当時、その訃報は翻訳界を駆け巡った。私の師匠もその人の翻訳のうまさを褒めていた。凄い人だったと誰もが口にするものだから、この本…
タイトルと黄色い表紙から想像していたのとはずいぶんと違うストーリーだった。いきなり、豊胸手術を受けたいといって、大阪の小さな店でホステスをしている姉が、娘を連れて主人公の夏子の東京のアパートにやってくる。娘は母親との会話を拒否している。い…
タイトルの通り、京都の書店のオーナーである著者が、コーヒーを飲みながら松本隆が語った言葉を書き留めている。薄いけれど、ハードカバーのとても素敵な本だ。 作詞では物語が一番重要だと語る。「なんで自分は生きているのかって説明できない。説明はでき…
このタイトルはどういう意味なのだろうと思ってページを開くと、その話から始まった。雨の中、傘を差し掛けながらお母さんの車椅子を押す作者。途中、ケータイの所在を確認しようと、ちょっともっててと母に傘を渡す。無事に確認できて、傘を受け取ろうとす…
萩尾望都の漫画は何冊か読んでいる。十数冊かもしれない。それでも、全作品数に比べたらそれしか読んでいないというべきだろう。この本はいっとき話題になっていたのでずっと気になっていて、とうとう読むことにした。ここに書かれていることは本当はどうな…
この本はもう何度読んだことだろう。手元にあった清水俊二訳は昭和54年! そして村上春樹訳もあわせて読んだ。翻訳の課題だったので再読したのだが、自分で訳そうと思って読むと、深く読む。そして、原書の単語の選択にとまどいながら、イメージを作り上げ、…
作者の岸田奈美さんはパラリンピックの解説番組にでていたかわいらしい女性だ。お父さんを早くに亡くし、お母さんは大きな病気をして車椅子に乗る。弟さんは明るい性格のダウン症、同居の祖母はすこしぼけていて、ほんの少し前に自分が言ったことも覚えてい…
小田急線の電車のアナウンスは、日本語に続いて英語でも流れる。"Doors on the left side will open."と外国人女性の声が車内に響く。片岡義男はこの"will"が気になる。電車が次の駅に到着する前に、何らかの事情が生ずれば、左側のドアは開かないかもしれな…
朝ドラ『あまちゃん』でいつも喫茶リアスのカウンターの短い辺に座っていた、琥珀の勉さんこと塩見三省さん。なんだか気になる俳優だったが、あのあと、大病をされていたことは知らなかった。ドラマ放映の翌年、2014年3月の寒い日、脳出血で倒れ、その後遺症…
毎年撮れる果実のように、今年も糸井さんの文章を集めた本を読んだ。世の中には、糸井さんのことが嫌いな人もいて、それは当たり前かもしれないけど、どういうところが嫌いなのかわからないでいた。で、この本にはこんな言葉が載っていた。 「どういうやせ我…
表題になっている「ごあいさつ」では、二人暮らしの姉妹の家に一人の女性が姉を訪ねてやってくる。応対に出た妹に、その女性は「お姉さんに主人がいつもお世話になっているようなのであいさつにきた」という。姉の不倫相手の奥さんだ。 その話を聞いた姉は、…
最近の片岡義男は、小説を書くプロセスを小説にすることが多い。そうなると登場人物は小説を書く人、ということになる。すでに作家である人が、これを小説にしたらいいのではないかと思いつく様子を描く。あるいはライターと呼ばれる人たちが、なにかのきっ…
横浜アリーナで行われた今年のツアーの最終日に行ってきた。3人がそろうのはこれで最後。とてもいい3人組だったなあと思う。会場は前後左右の席には座れないようになっていて、会場キャパシティの4割くらいの観客。入場前に、QRコードから名前と住所・氏名・…
「わたしはどれくらいあなたからうばい、与えてきたのだろう?」 じぶんの子どもに想いがつたわらない。できるだけ期待にこたえてあげたいとおもうけど、わたしだってつらいときはあるし、なんでも許すわけにもいかない。でも・・・。 母親とその子ども。こども…
物語は、堺の町を織田の軍勢が取り囲むところから始まる。まだ美濃から上洛してきたばかりの織田信長は、戦に使う矢銭二万貫を出せと堺に迫る。独立した商業都市としてすでに名を馳せていた堺にとって決して無理な金額ではなかったが、どこの大名にも与せず…
荒野にどこまでも続く広大な風景の中を先へ先へと伸びるハイウェイ。モノトーンだが、荒野ではない。未来都市のようだ。そのハイウェイの上を一台の車が静かに進んでいく。日本では職人さんたちが仕事に使うワンボックスカーのようだ。小型のキャンピングカ…
小松左京づいている。この映画は1980年公開。ウイルス兵器によって人類が滅亡するのだが、南極探検基地で任務に就いていた世界各国の約800人だけが生き残る。このウイルスは気温が0℃以下だと活動しないため、南極では活性化しなかったのだ。 2021年の今、こ…
1973年に公開された、小松左京原作の映画。見た記憶があったのだが、うろ覚えだったのだが、今回はしっかりと観た。というか、日本が沈んでいく様子が眼に焼き付いた。公開当時は、アイデアの卓越さと特撮映像の素晴らしさで観客に初めて体験する恐怖を与え…
アカデミー賞助演女優賞を獲ったことを知り、観に行ってきた。佳作だと思うが、それほどすばらしいとは感じなかった。ユン・ヨジャンも、スティーヴン・ユアンも、他の俳優さんも良かった。けれど、私の胸には深くささらなかった。批判する気はまったくない…
映画監督の西川美和さんの新刊。映画を制作しながら小説誌に連載した時の文章をまとめたものだそうで、そのため最初の頃はまだ公表できないことが多く、映画のタイトルも俳優の名前もでてこない。それが連載が進むにつれ、だんだんと輪郭が見えてくる。思い…
近頃、いきものがかりの歌をよく聴く。いい歌が多いなあとずっと思っていて、歌詞をじっくりと読むと結構深い。そして、あのボーカルのまっすぐな歌い方のおかけで、まっすぐに胸に届く。歌うテクニックという意味では、もっと上手な人がいると思うが、伝わ…
創作についての本はたくさんあって、何冊も出ているのだが、このタイトルに惹かれて読んでみた。作家志望の人からの質問に答えていく、という形式で書かれているのだが、実際に講演会場などで質問されそうな、どうでもいい(と思える)質問にもしっかりと答え…
著者の早野龍五さんを知ったのは、東日本大震災の時、ツイッターで客観的なデータを発信されていたのがきっかけだった。この震災の直後は様々な情報がツイッター上で飛び交い、今で言うフェイクな情報も多かった。その中で、憶測で何かを言ったりすることな…
クララは人工親友という存在だ。ジョジーに選ばれて、彼女と一緒に暮らすようになる。AIを備えた彼女は自分でどんどん学習し、自分なりの考えや信念を持つ。20世紀の文学で描かれた信念を持って行動した黒人たちや、異端と言われながら信仰を捨てなかった宗…
翻訳学についての本であり多くの気づきを得た。翻訳のシンポジウムなどでは、原書で描かれた「絵」を日本語で描き、同じ絵を示す事だという趣旨の話を聞く。原理としてはわかっていたが、この本では原書で書かれていた「現実 IDEA」を日本語で再現するという…
セラピードッグという存在によって、長年沈み込んでいた人が明るくなったり、寝たきりだった老人に笑顔が戻ったりすると聞いたことがあった。この漫画はあるセラピードッグの一生とそのパートナーとなった青年の日々を描いている。フィクションなのかもしれ…
師匠の翻訳生活40周年の振り返り本だ。高校の英語教師時代から翻訳を始め、その後翻訳家として一本立ちして、現在までに訳書は200冊以上を超える。ミステリー、ハードボイルドファンならたぶん田口俊樹訳の本を一冊は読んだことがあるのではないだろうか。 …
雑誌Numberに隔週で、いきものがかりのリーター水野良樹さんが書き続けているコラムがある。時々立ち読みをしていたのだが、それをまとめたのが本書だ。作詞家でもあるので、その言葉遣いはもちろんそういう見方をするのかと、ふーむと思う。スポーツの話の…