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黄金の日日

物語は、堺の町を織田の軍勢が取り囲むところから始まる。まだ美濃から上洛してきたばかりの織田信長は、戦に使う矢銭二万貫を出せと堺に迫る。独立した商業都市としてすでに名を馳せていた堺にとって決して無理な金額ではなかったが、どこの大名にも与せずに独立自治を貫いてきた意地がある。しかも、まだ天下に知れ渡る前の信長を安く値踏みしている会合衆もいたし、堀と海で守られている立地を頼りに堺の町衆は徹底抗戦するつもりでいる。このときは、結局、織田軍は引き上げて行くのだが、これを契機に堺と織田信長、そして秀吉との縁が生まれ、戦国の歴史に堺の商人が巻き込まれていくストーリーだ。

信長の戦の裏で鉄砲を調達し、秀吉の大返しの陰で船を手配した助左衛門という商人が活躍する。武士の視点から語られてきた歴史物にはなかった視点であり、鉄砲や船、外国の貿易が、戦国時代を大きく変えていったことを教えてくれる。戦国史を商人の目から見ていくのは面白いアイデアだ。とはいえ、磯田通史さんの「武士の家計簿」のような実際の貨幣価値まで検証することが主眼ではなく、武士ではない、もう一つの視点から信長の勃興から豊臣の滅亡までを語るために城山三郎は、堺商人を主人公にしたのだろう。

主人公の助左衛門は、大名たちとの不思議な縁を結びながら、南蛮貿易に進出し、のちにマニラに住むようになる。石川五右衛門の活躍も彩りを添える。久しぶりに面白い歴史物だった。

最近、NHK大河ドラマになった黄金の日々を再放送している。この小説とはすこし話を変えてあるのだが、錚々たる役者の演技が素晴らしい。

黄金の日日 (新潮文庫)

黄金の日日 (新潮文庫)