Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

森繁自伝

森繁久彌という人は、私にとってはずっと大御所の役者さんであり、知床旅情の人だった。それから、向田邦子が台本を書いていた社長シリーズを知ることになったが、それ以上のことはなにも知らなかった。この本は、日本の演劇人となる前に、家族とともに満州…

映画 PERFECT DAYS

2023年のカンヌ映画祭で受賞したということだけでなく、ヴィム・ベンダースと役所広司という組み合わせが気になっていた。すでに劇場では一日一回の上映で、小さなスクリーンでしか上映していなかったが楽しめた。主人公の平山は東京都の公衆トイレを清掃す…

それで君の声はどこにあるんだ?

黒人神学という言葉が、つまりそうした学問があることをつい最近まで知らなかった。だが、その言葉を聞いたときに、ずっと考えていた疑問を解くきっかけになるかもしれないと思い、この本を手にした。 アメリカでは今でも、残念ながら黒人たちは命の危機にさ…

坊やはこうして作家になる

言葉の問題を考えていて、過去の自分のノートを見直していたら、次のような引用文をメモしているのを見つけた。 「日本人の傲慢さは言葉で関係を作ろうとしないことである。言葉をつくして双方のために論理を重ねようとしないことである」 「日本人は考えな…

じゃむパンの日

赤染晶子さんのエッセイ。なんて軽やかな、ユーモラスな文章なのだろう。こういう人に私はなりたい。リズムが良くて、ユーモアの分量がちょうど良くて。京都の人だから? 嫌みの代わりに諧謔で語るというような。こんなエッセイを書く女性が他にもいたよなあ…

街とその不確かな壁

村上春樹の新刊。世界の終わりとハードボイルドワンダーランドの物語構造で、ストーリーが進む。でも、今回の新作の基になった中編がもともとあって、その書き直し的にハードボイルド・・・を書いたということらしい。そして、今回、書き直しをしたということだ…

メタモルフォーゼの縁側

ひとりの高齢の女性がたまたま本屋で手に取った漫画が好きになり、どんどん続編を読みたくなっていく。本屋でレジをしていた、アルバイトの女子高生が、それを見て、おやっと思う。自分は、その漫画、BL漫画が好きなのだが、なんとなく後ろめたくてそのこと…

パリの空の下で、息子とぼくの3000日

辻仁成の小説は読んだことがない。中山美穂とのことだとか芸能ニュースの人だと思っていたので関心がなかったのだが、NHKでパリ暮らしの番組を観て、変人ではあるがなかなか面白い人だと感じた。で、この本を読んでみるととても面白かった。 パリでシングル…

音楽は自由にする

坂本龍一という人は、学究肌で物静かな人なのだと勝手に思っていた。クラシック音楽が主戦場なのかと思っていた。YMOの三人はずっとわかり合っているのだと思っていた。ラストエンペラーの映画音楽は、緻密に計算されて映像に合わせられていたのだと思ってい…

僕は珈琲

珈琲が呼ぶ、の続編となる、珈琲にまつわる記憶やストーリーが書かれている。映画の中で登場人物が珈琲を飲むシーンについての話は面白い。そんな視点で映画を観ていないからね。珈琲についての歌を探し回る下りも面白い。日本に珈琲が入ってきてまもない頃…

ライオンのおやつ

昨年、この小説を元にしたテレビドラマを観た。とても良かった。過剰にならず、淡々とでもひたむきに生き抜く様子が。 主人公は、末期がんに蝕まれ、離島のホスピスへ最後の時間を過ごしにやってくる。風光明媚なだけでなく、スタッフの温かさもあり雰囲気は…

緑の歌

はっぴいえんどと細野晴臣の音楽が好きで、村上春樹の小説が好きな、台湾のイラストレーターの女性が漫画の形式で書いたとても私的な小説。音楽を聴くことによって広がる想像力と、豊かな感受性で感じ取る現実がつながっていて、独自の世界観を描いている。…

長い別れ

チャンドラーのこの作品は、三人目の訳者を得た。読み始めてすぐに、これは好きな小説だとわかった。だからマーロウとの時間をできるだけ楽もうと、じっくりと時間をかけて読んだ。今は心地よい読後感に酔いしれている。 清水訳の長いお別れが垣間見せてくれ…

女のいない男たち

映画ドライブマイカーの原作となった短編集だ。映画を観たあとに読み直してみた。たしかに、あの映画はこの小説集の世界観をうまく表現していたなと思う。それでも、小説を読んでいるとき、わたしの頭の中にある主人公は西島秀明ではない。あたりまえだ。映…

映画 ドライブ・マイ・カー

まるで村上春樹の小説を読んでいるような映画だと感じた。淡々としたテンポ、感情過多にならない口調のせいだろうか。ストーリーは同名の小説とはいくつか設定などが変えられている。自動車も、車種は一緒だが色が違っていた。他の小説のストーリーも混じっ…

べてるの家の「非」援助論

「『弱さ』とは、いわば『希少金属』や『触媒』のように周囲を活性化する要素を持っているのではないか。人の持つ『弱さ』は、けっして劣った常態として、人の目をはばかったり、隠されるべきものではない。べてるでは、弱さとは、公開されて初めて威力を発…

映画 コーダ あいのうた

今年のアカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を獲った話題の映画で、とてよかった。聴覚障害者の役を本当に聴覚障害を持つ俳優が演じているのだが、その演技力は素晴らしい。リアリティということ以上に、私の胸に迫るものがあった。 タイトルの「コーダ…

エデュケーション 大学は私の人生を変えた

こんなことが本当にあるのだろうかと読み終わった後も信じられない思いだ。しかし、これは著者がたどってきた人生の真実の話だ。 タラは、アイダホ州でサバイバリスト(こういう言葉があるんだね)の両親のもとで生まれた。子どもたちは出生届けさえ出してもら…

風よ あらしよ

伊藤野枝の人生を描いた小説だ。大杉栄とともに憲兵隊に殺された彼女は、歴史的には恋多き女として知られている。瀬戸内寂聴もまた、自分の人生を重ねるように彼女の物語を書いている。野枝は大杉との間に4人の子どもを成すが、それに先立ち彼女と大杉は無政…

閑話休題 岸谷香感謝祭コンサート

コロナ禍ではあるが、前にチケットを買っていたので細心の注意を払ってコンサートに行ってきた。マスクを二重にして、声を出さないようにして。観客はプリプリ以来のファンとおぼしきおばさまたちが多く、おとなしいがなかなかに盛り上がる。ゲストはトライ…

ワシントンハイツの旋風

戦後、東京のど真ん中、代々木に広大なアメリカ空軍兵とその家族のための住宅地区が作られた。そこはワシントンハイツと呼ばれ、今の代々木公園からNHKのあたりまでの広大な区画だ。その歴史を知りたくて、この本を借りたのだがその目論みは外れた。戦後の時…

絶対安全剃刀

ラジオで「田辺のつる」の話が出て、気になってその短編が収めてある高野文子の作品集を買った。田辺つるさんは、少し物忘れがひどくなった82歳の女性なのだが、自分のことを子どもだと思っている。だから漫画の中のつるさんは5歳くらいの女の子だ。孫娘の人…

映画 浅草キッド

話題の映画を帰省時の新幹線の中で観た。タケシの映画だと思っていたら、師匠についての物語だった。その師匠を大泉洋が演じていて、なんだかとても良かった。実際には知らないが昔の浅草の感じがとてもよく描かれていたように思う。その頃の浅草に行ってみ…

犬は歌わないけれど

「『毒にも薬にもならない人畜無害の歌ばかり書いて』と自分はこれまで幾度も揶揄されてきた。だが、あえて言葉を返すのなら、皮肉ではなく事実として、何者も傷つけない無害の歌を書くなど、本来は途方もなく難しいことだ。」 いまだにTV局の玄関先で入館許…

わが盲想

この著者のことは高橋源一郎のラジオにゲストとして話していて、その声をまず知った。達者な日本語で親父ギャグを連発。本当に日本語の運用能力が凄い。そして話を聞いていると、なんと眼が見えないのだと。しかも、日本語で本を書いたのだと、世の中には凄…

ねみみにみみず

著者は2014年に亡くなられている翻訳家で、この本は帰らぬ人となったあとにご本人のエッセイや後書きをまとめたものだ。当時、その訃報は翻訳界を駆け巡った。私の師匠もその人の翻訳のうまさを褒めていた。凄い人だったと誰もが口にするものだから、この本…

夏物語

タイトルと黄色い表紙から想像していたのとはずいぶんと違うストーリーだった。いきなり、豊胸手術を受けたいといって、大阪の小さな店でホステスをしている姉が、娘を連れて主人公の夏子の東京のアパートにやってくる。娘は母親との会話を拒否している。い…

喫茶店で松本隆さんから聞いたこと

タイトルの通り、京都の書店のオーナーである著者が、コーヒーを飲みながら松本隆が語った言葉を書き留めている。薄いけれど、ハードカバーのとても素敵な本だ。 作詞では物語が一番重要だと語る。「なんで自分は生きているのかって説明できない。説明はでき…

傘のさし方がわからない

このタイトルはどういう意味なのだろうと思ってページを開くと、その話から始まった。雨の中、傘を差し掛けながらお母さんの車椅子を押す作者。途中、ケータイの所在を確認しようと、ちょっともっててと母に傘を渡す。無事に確認できて、傘を受け取ろうとす…

一度きりの大泉の話

萩尾望都の漫画は何冊か読んでいる。十数冊かもしれない。それでも、全作品数に比べたらそれしか読んでいないというべきだろう。この本はいっとき話題になっていたのでずっと気になっていて、とうとう読むことにした。ここに書かれていることは本当はどうな…