Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

映画 PERFECT DAYS

2023年のカンヌ映画祭で受賞したということだけでなく、ヴィム・ベンダースと役所広司という組み合わせが気になっていた。すでに劇場では一日一回の上映で、小さなスクリーンでしか上映していなかったが楽しめた。主人公の平山は東京都の公衆トイレを清掃する仕事をしている。五十代くらいか。朝早く起きると、二部屋しかないアパートの一室を占拠する鉢植えの植物たちに水をやる。顔を洗って歯を磨き、朝食代わりの缶コーヒーを自動販売機で買い、仕事道具を積んだマイカーの運転席でそのコーヒーを飲む。首都高に乗って仕事に出掛け、都内各地のトイレを手際よく清掃する。昼食はいつもの公園のベンチでサンドイッチを食べる。午後も仕事をして、夕方遅くならないうちに家路につく。開店するのを待って銭湯に入り、それから自転車に乗って馴染みの、浅草駅地下の飲み屋で酎ハイ2杯とつまみで夕食を済ませる。夜は早めに布団に入り、眠くなるまで読書。週末は古本屋で文庫本を買い、スナックで酒を飲む。そんな毎日が続いていく。

そんな平凡な生活に波風が立つこともある。若い仕事仲間。妹の娘。スナックのママの元旦那。隠遁者のような生活を送る平山にとって、人間関係こそが厄介の種なのだろう。それでも淡々と、日常を大切に生きていこうとしている。

平山が家と仕事現場を車で移動するとき、懐かしい80年代頃の音楽がかかる。彼はカセットテープを大量に持っていて、それを車内で聴きながら移動する。このシーンがとても良い。旅には出ないが、これはロードムービーなのだ。自分の城、あるいは分身とも言える軽ワゴン車には仕事道具がぎっしりと詰まれている。その車で仕事場に往復できるだけでも、電車通勤のサラリーマンより遙かに豊かな時間を持っているように感じた。銭湯や飲み屋へは自転車で行く。この自転車もちょっとおしゃれだ。決して金銭的なゆとりのないはずの生活なのだが、小さなこだわりが端々に感じられて、素敵な人生なのだろうと思える。生きるということ、日々の生活を続けていくことの中で大事なものとは、たとえささやかでも、自分が大切にしているこだわりだったり一人きりの時間なのかも知れない。映画を観た直後よりも、時間が経ってからじわじわとボディプローのように効いてくる映画だった。

 

PERFECT DAYS 公式サイト