Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

2015-01-01から1年間の記事一覧

この冬の私はあの蜜柑だ

片岡義男の最新刊。ちかごろは、主人公の作家が小説のアイデアを得る経緯などについて書いている。メタ小説とでもいうのだろうか。この本も編集者からお題をいただいて、そこから小説のアイデアを創りだしていく。まるでゲームのように。人間と人間の関係性…

データの見えざる手

いまはやりのビッグデータという言葉が叫ばれるずっと以前から、自らの腕時計型のセンサーを装着し活動量を解析することで、人間の活動を定量化し、分析してきたのだという。人間は一日中ずっと坐り仕事をしていることは、自然の法則としてはできないことが…

ラオスにいったい何があるというんですか?

村上春樹の旅紀行だ。あたりまえだけれど、描写がとてもうまくて、旅先で考えたことの話にうんうん、となってしまう。音楽と食べ物に造詣が深いことが旅を楽しむことに大いに役立っている。ジャズ喫茶をやっていて、食べ物と飲み物を出していたのだから、そ…

翻訳教室

この本は翻訳家の鴻巣友希子さんが、自分が卒業した小学校で、翻訳教室を開催した時の話。小学生にどうやって翻訳体験をさせるのだろうと思っていたら、翻訳の本質を伝える個で、しっかりと小さな翻訳家が生まれていた。能動的に読むこと、と言う言葉で最後…

あなたが消えた夜に

連続通り魔殺人を追う二人の警察官を中心に話が進む。次第に連続事件ではなく、いくつかの事件が交錯していることがわかる。そして犯人の、燃やされた遺書が読者にだけ明らかにされ、意外な方向へ発展していった事件の顛末を知ることになる。読者の期待を裏…

だから、生きる。

つんくという人のことはよく知らなかった。まっすぐな人なのだ。才能はあるし、ラッキーマンだった。でも歌手なのに、声をなくしてしまう。そのことで、自分が生きることの意味をしっかりと握りしめたように思う。かっこわるくて不器用なところもある。そこ…

誰でもないところからの眺め

終わりの始まり、という言い方を時々聞く。この本で描かれているのは、そんな始まりの予感のようなものだ。現代を終末のようだと評する見方はある意味正しい。このまま衰退していくのではなく、新たなパラダイムが始まるのを待望する気持ちが何かを引き寄せ…

神は銃弾

マッドマックスの新作の世界観に近いということで、話題になっている本だ。小説でしか描けない世界というものは確かに存在する。この本が描きだした世界の極悪さ、凶暴さ、醜悪さは恐ろしい。そうしたことをマッドマックスが描き出しているのだとしたら、映…

沈みゆく大国アメリカ

オバマケアの実態をまとめた本だ。オバマケアとはかなりとんでもないものだということがわかった。そして、アメリカは本当に資本主義の国で、デモクラシーの国なのだということを改めて気づかせてくれた。それに比べたら、日本は社会主義の国だと言ってもい…

泥棒は選べない

「泥棒探偵バーニィ」シリーズの第一作。泥棒と探偵がどうつながるのかと思いながら読んだが、なるほどそうか、と感心した。考えてみれば、泥棒は住居侵入は探偵よりも上手いし、警官に友達がいてもおかしくない(米国の場合)。探偵がやってしまうと、なんだ…

フェイスオフ

短編のミステリーは綿密に伏線を張る紙幅もなく、中途半端な終わり方をするものが少なくない。本屋さんが選ぶ賞を受賞した作品でも、私には納得のいかない終わり方をしていて落胆した。日本の読者にはすっきりとした収束はあまり重要ではないのだなあと発見…

職業としての小説家

村上春樹は、年上だけれども、同時代を生きている作家で、ずっと新作が出るたびに読み続けている作家の一人だ。はじめは新感覚の作家として、文壇という業界団体に属している小説とは別な作品を提示してくれた。広告がポップカルチャーの一側面を固めていた…

望遠ニッポン見聞記

この作者のテルマエロマエには心を奪われ、映画は2本とも観たし、原作マンガも堪能した。かつてイタリアの大家といえば塩野七生さんだったが、彼女は為政者・支配者の視点で世界を見るのに対して、ヤマザキマリさんは路地裏から文化的な違いを見いだす。それ…

偽りの楽園

チャイルド44に驚かされた、あのトム・ロブ・スミスの新作が出た。はじめは、これがあの三部作を書いた作家の新作なの?という思いながら読み進めたが、ついつい引き込まれ一気に読み終えた。途中、母親の独白が延々と続き、飽きてしまうかなと思ったが、い…

ふたつめのボールのようなことば。

シティボーイズの大好きな演目の一つに、「瓶蓋ジャム」というのがある。なぜかわからないが、ジャムの瓶の蓋の裏についたひとかたまりはとても美味しく感じる。なので、その瓶の蓋の裏についたジャムをこそいで、一瓶に集めたのが瓶蓋ジャムだから、これは…

名文探偵、向田邦子の謎を解く

向田邦子という人の存在は、まずテレビドラマで知った。寺内貫太郎一家は大好きだった。その時は、ドタバタを楽しんでいただけだった。それから、阿修羅のごとく、あ・うんなどを知る。こちらは胸の奥に届いた。自分の知る風景が、親の世代とつながっている…

忘れてきた花束。

今年も、楽しみにしていた一冊がまとまった。一年に一冊、糸井さんの言葉の抄録だ。たった一言のつぶやきにも、ある程度まとまった文章にも、糸井さんという人の想いや考えがしっかりと反映されていて、いつもの糸井さん流の考え方を確認してみたり、新しく…

たぶん、おそらく、きっとね

1967年当時のバンドマンの話だ。戦後から抜け出し、自由業ともいえるキャバレーのバンドマンたちの日常は、時代と言うよりも若さゆえの不安を内包している。そして大きく変化していくための伏線が日常の描写の中にある。それまでの人生を、大きく変えるきっ…

倒錯の舞踏

タイトルからすでにおどろおどろしい本である。だが、マット・スカダーのシリーズの中では、重要な一作ということで読んでみた。読後感は、スカッとさわやかとはいかないが、470ページにわたって、主人公とともに「卑しき街路」を歩いてきた後は、納得できる…

コインロッカー・ベイビーズ

読書会のために再読した。1984年の作品。村上龍は凄い。描写が視覚に訴えてくる。特にダチュラを見つけに海の中へ行くシーンのあたりは、スローモーションの映像を見ているようだった。映画化したくなるのはわかる。コインロッカーに棄てられた子供は、常に…

殺し屋

タイトル通り、依頼された殺人を生業とする男の話だ。短編連作を連ねながら、結局は長編になっているスタイルで、多彩な殺し方を読まされるのかと思いきや、殺し方のディテールなど描いていない場合もある。プロの殺し屋の生活をユーモラスに垣間見せるとい…

コラム道

文章がうまい。美文とかではないけれど、これでもかとたとえが面白い。視点の転換が面白い。内田樹さんの言うように説明の上手い人である。こういう人に私はなりたい。たしかに、Twitterでのdisりたくてたまらない人々に対するあしらいも上手い。それでもっ…

首のたるみが気になるの

ノラ・エフロンの本を阿川さんが訳してくれた。訳書が出たとき、あっと思った。というのは、この本の原書をニューヨークのブリックリンの古本屋で見つけ、結構気に入って読みふけり、訳せたらいいなあなんて思っていたからだ。確かに、女性が訳した方がいい…

映画 ビリギャル

久しぶりに邦画を観る。原作の本が出たときは、へー、と思っていたが読むことはなかった。映画になって、架純ちゃんが主演と聞いて、失礼ながら、アイドル映画なのだと思って全く関心がなかった。たまたま、複数の友人から「映画よかったよ」というのを聞い…

秘密

翻訳ミステリー大賞受賞作ということで読んだのだが、これもミステリーなのかなあ、という思いが残る。そうしたことを考えなければ十分面白い。上下二巻という長さを十分に生かした展開だった。図書館で借りたのだが、大勢の人が借りていることが図書カード…

映画 アナと雪の女王

まったくもって今更観たが、良くできている。たるいところがなく、すいすいとストーリーが進行していくのは、アニメだからなのか。「真実の愛」が何なのかというのは、よく伝わった。ネガティブな力も強いが、ポジティブな力は、他の人を巻き込めるが故によ…

映画 チャイルド44

以前読んだ本が映画化され、試写会に行ってきた。映画は面白かった、良くできている。だか゜、文庫本2冊分の長編をぎゅっと集約したので、「走った」感があった。ひとつ、残念だったのは、スパイだと疑われた獣医が、MGBに疑われたら最後、殺されるとわかっ…

獣たちの墓

この前観た映画「誘拐の掟」の原作本で、ハードカバーだと430ページを越える長編だ。映画とは少し違っているが、この本の世界観は良くできていた。そして、この本も様々なサイドストーリーを巧妙に配し、キャラクターを上手に創りあげている。上手なストーリ…

映画 イミテーション・ゲーム

アラン・チューリングの名は、コンピューターの仕組みを考えた人としては知っていたが、こんなにも孤高の天才だったとは知らなかった。他の人とはまるで違う見方で世界を眺めていた。理解者は最初から少なかった上に、ほとんど唯一、愛する人を突然失ってし…

映画 バードマン

公開初日で日比谷シャンテの16:25の回は満員だった。なんとも不思議な読後感のある映画だった。虚と実を継ぎ目がわからないように接いであって、主観と客観も地続きだ。現実(と思える)映像と幻想(かもと思える)映像が互いの境界を無自覚に越える。観客は最後…