Life and Pages

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職業としての小説家

村上春樹は、年上だけれども、同時代を生きている作家で、ずっと新作が出るたびに読み続けている作家の一人だ。はじめは新感覚の作家として、文壇という業界団体に属している小説とは別な作品を提示してくれた。広告がポップカルチャーの一側面を固めていた時代でもある。日本という国全体が元気であり、金が大事だという風潮に変化していく時代でもあった。そして、バブルがはじけ、企業は自信をなくし、広告はつまらなくなった。ただしその間も村上春樹は、新しい作品をずっと発表してきた。そのたびに少しずつ変わりながら。私は、その変化も含めて、この作家の作品を同時代人として全作品を読み続けてきたことはとても幸せだと感じている。
その創作に対する態度や日頃考えていることなどが、真摯に語られている。文章がやや硬いのは自分の考えていることを真剣に語ったからなのだと思う。この本で、作家村上春樹の今を知ることができた。断片的に、文章を書いたり翻訳をする時のノウハウだったり心構えについての文章を切り出すこともできるが、それよりもこの一冊を通して自問し、語りかけてくる姿勢がなによりも、この本を読むことの意味だと感じた。きっとまた再読する時があると思う。
つい最近ネットで、村上春樹は大人の読み物ではない、という言葉を、外資系OLを売り物にする人のコラムで読んだ。そのコラムの存在はfacebookで知った。SNSではなぜ、自分が文章や物語を読む力がないことを卑下することなく、それを書いた人を批判する人が多いのだろう。そうした意見に賛同する人も多い。小説は、誰もが同じように読みとれるものではないし、そんな必要もない。ハウツー本のようにしか文学書を読めないのは個人の能力だから仕方がない。だからといって、自分の浅いものの見方で世の中を批判するというのは、なにかの代償行為なのだろうか。
作家が物語を書くことは、その人の生き方であり、生きてきた道なのだ。自分の職業を継続していくことに対する強靱な意志を突きつけられ、読者である私は自分の生き方が問われているように感じた。それに対する答えは、これから出していこうと思う。

職業としての小説家 (Switch library)

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