Life and Pages

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偽りの楽園

チャイルド44に驚かされた、あのトム・ロブ・スミスの新作が出た。はじめは、これがあの三部作を書いた作家の新作なの?という思いながら読み進めたが、ついつい引き込まれ一気に読み終えた。途中、母親の独白が延々と続き、飽きてしまうかなと思ったが、いやいや、いろんなことを考えながら読んでいたら、途中で止まらなくなった。自分の幼かった頃のこと、故郷の景色、父親とかわした言葉、年老いた母親の話し方など。女性的な、と決めつけることはできないが、鋭い直観を軸にして細かなディテールを肉付けしていく論理は、インテリ女子でこういう人いたなあ、などと思ってみたり、作者には騙されないぞと、なぜか対決モードで読んで見たり、でも、まんまと作者の意図にはまり、一気に読み終えた。そして余韻ともいえる読後感が心地よかった。
本の帯や、広告では前回の三部作をネタにしていたが、いやいや、あのミステリーの作者の新作、というようなことは言わなくても良かったはずだ。でも、商売としては仕方ないか。
近頃、既存のジャンルという枠組みにはまらない作家がたくさんいるように思う。それはとてもいいことだし、時代の変化とともに様々な事柄が複雑に絡み合うようになった現実の投影なのかもしれない。
家族の絆はこの作家にとって不変のテーマだ。家族が痴呆になったら…と想像してみるとき、この主人公の対応は大きなヒントをくれたように思う。虚言と思えるような言葉の中には様々な真実が材料として使われている。それを見極めて、言葉でコミュニケーションできるとしたら…。独白の後半は自分のこととして考えながら読み進めた。
この作品もチャイルド44と同様、映画化の話が進められているという。いまから楽しみだ。

偽りの楽園(上) (新潮文庫)

偽りの楽園(上) (新潮文庫)

偽りの楽園(下) (新潮文庫)

偽りの楽園(下) (新潮文庫)