Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

名文探偵、向田邦子の謎を解く

向田邦子という人の存在は、まずテレビドラマで知った。寺内貫太郎一家は大好きだった。その時は、ドタバタを楽しんでいただけだった。それから、阿修羅のごとく、あ・うんなどを知る。こちらは胸の奥に届いた。自分の知る風景が、親の世代とつながっていることや分別のあるはずの大人たちもまた、当時子供だった自分と同じ人間なのだと思ったり、大人ならではの悩みを抱えているのだと知る。それかせ、エッセイや小説を読むようになった。すべてを書き尽くさずに、余白や余韻の中で、大人の事情や心中の思いを表現する作風に惹かれた。ちょっと古風な言葉遣い、頑固な大人の態度が好きだった。一時、かなりはまった。そして、たまたま、鴨下信一の本に出会った。ふうむ、そうだったのか。向田邦子の描いていた世界を十分に読み取れていなかったなあとつくづく思う、そして、真意をくみとれなくても、十分に面白い。希有な作家なのだとあらためて思う。そして、こうした意味での解説本は面白くて意味がある。著者が書いているように、「向田邦子が脚本や小説の中で描いた時代ではなく、向田邦子が作品を描いていた時代」について考えてみると見えてくることが多い。例えば寺内貫太郎一家も、放映された時代よりも少し前の時代の家族の話だ。視聴者が懐かしい思いでドラマを見ている時に心によぎるもの、それを考えて作られていたのだと思う。脚本家というのは、奥深く素晴らしい人なのだ。向田邦子の本をあらためて読んでみようと思った。

名文探偵、向田邦子の謎を解く

名文探偵、向田邦子の謎を解く