タイトルからすでにおどろおどろしい本である。だが、マット・スカダーのシリーズの中では、重要な一作ということで読んでみた。読後感は、スカッとさわやかとはいかないが、470ページにわたって、主人公とともに「卑しき街路」を歩いてきた後は、納得できる話の終わり方だった。悪人は本当にひどい野郎だが、主人公の友人にはそれを上回る極悪非道の強者がいるのだが人間味にあふれていて、主人公の気持ちと同じように、愛すべき友である。人殺しにいいも悪いもないのは百も承知だが、人を殺すに至った理由は納得できることとそうではないことがある。少なくとも地上には神さまがいないので、人間が生きる価値を考えることになる。それは誰かが裁判官になることではないから、一人ひとりが自分にとっての命の意味と重みを考えて生きていくしかない。それはしんどくて、孤独な旅だ。だが、そこにしか、人間の生きる意味はない、そんな気がしてくる。今回の悪党のくそったれも、人間のいやな一面を拡大してしまった化け物だが、そもそも人間が持っている欲望から始まっているのは間違いない。自分勝手なやり方で、他の人間に害をもたらすやつは罰をうけても仕方がない。その罰を下すのは、神さまの不思議な力ではなく、我々と同じように「卑しき街路」を自分の頭と腕力を使って歩く野郎の、血の滴る拳であることに、我々は共感し、一緒に胸くそ悪い想いを抱え、そっとエールを送るのだ。
- 作者: ローレンスブロック,Lawrence Block,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 二見書房
- 発売日: 1999/05/01
- メディア: 文庫
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