Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

夏物語

タイトルと黄色い表紙から想像していたのとはずいぶんと違うストーリーだった。いきなり、豊胸手術を受けたいといって、大阪の小さな店でホステスをしている姉が、娘を連れて主人公の夏子の東京のアパートにやってくる。娘は母親との会話を拒否している。いったいどんな展開になるのか、まったくわからない。それでもページをめくっていくと、夏子は作家志望であることがわかる。そして、自分の内面と向き合いながら、葛藤もしながら、作家になる。

描写がとても上手。こういう小説を読むのは久しぶりかもしれない。心の動きの描写も深くて暗くて切ない。子どもを持つかどうするかという悩みは果てしない。いいとか悪いとかではないし、人それぞれだし、人間とは何なのかという考えも避けては通れない。女性ではないとわからないとかいっている場合ではなくて、人間とは何かを考えながら読むことになる。

読後感はと聞かれたら、なんと答えればいいんだろう。読み終えたばかりの今は、うーん、としか言えない。

そうだ、描写のうまさというのは、風景などの描写ではないんだなと思った。人と人が対立するときの感情などが、そういうことってあるなあと思わせる。嫌なことを聞かされているときの気持ちだとか、よくわからないけれど勝手にそうしてしまう(しそうになる)ときの感じとかが、ヒリヒリと沁みる。世界的にヒットということだけれど、その辺りが理由なのかもしれない。人間の感情を苛立たせるものって普遍なのじゃないだろうか。