Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

折りたたみ北京

タイトルがとても気になる。どんな話なのだろうかと。翻訳の師匠が面白かった本だと挙げていたので読んでみた。副題は現代中国SFアンソロジーだ。編者はケン・リュウ。「紙の動物園」の著者。不見識なことに、中国SFと言われてもピンとこなかった。書店では、中国文学は世界の小説の棚に置かれているので、ほとんど手に取ることがなかったし、SFと中国の組み合わせは考えたことなかった。でも、AIの研究と実用化で米国と争う国だし、キャッシュレス化が日本より遙かに進んでいるし、監視カメラで人間の信用格付けをしている国なのだから、進んだSFがあって当然だ。しかも、今や「三体」が読書人の間でブームになっていて、その一節が、このアンソロジーにも収められている。

それは劉慈欣作の「円」で、秦の始皇帝の面前に、三人組の兵士を一つのユニットとして二進法の発生装置を作り、それを百万ユニット並べて、コンピューターの仕組みを再現する。山形天童の人間将棋のようだ。読んでいて、その迫力が眼に浮かぶ。

また、他の作家の作品も独創的だ。表題の「折りたたみ北京」は、一日を三つに区切り、三階層の国民が暮らす街を描いている。また、二十億の神様が宇宙船団で地球にやって来てホームステイする話など、本当におもしろい。SFは、「もし○○○が〜だったら」というところから、話が始まるわけで、本当に多種多様な話が展開される。

中国的な要素は、人名や妖怪、民話、自然の風景や、街、軍、政府の描写などに現れる。「1984」の世界が今一番似合うのは中国かもしれない。日本は(日本語で読める本の世界は、というべきか)小説の新大陸を見つけたようだ。