Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

人間

又吉直樹の三作目。二作目は読んでいないのだが。

三十八歳の主人公はライターなどをしながら本を出版し作家と認められるようになった。そこへ昔の友人から一通のメールがとどく。若い頃に数人で一緒に一軒家で暮らしていた時代があり、その頃の同居人の一人がネットで炎上していることを知らせてきた。思い出したくもないやつなのだが、ライター業をしているそいつのことはどこか気になっていた。ネットを見ると若い頃の苦い思い出が蘇ってくる。そして同居時代の苦い思い出が語られる。

上の原因となったのは、そのいけ好かないやつが、芸人で小説を書いているある男を自分の連載記事で取り上げて批判したことだった。テレビでコメンテーターをした際に、芸人なら笑わせろ、というそこの浅いどうでも言い記事だった。批判された男はそれに理路整然と反論する。ライターは腰砕けですぐに謝罪メールを送るが、作家はその文章もまた執拗に批判し、その一部始終を熱とで公開していた。主人公はそのやりとりを読んで、あの一軒家で同居していた中にいた、一人木のあった男が、その芸人で作家の男なのだと気づく。そして下北沢のバーで二人は遭い昔のような議論を交わす。太宰治の「人間失格」についての話も出てきて、作家又吉の素が出ているかのように饒舌な議論が深夜のバーで延々と続く。こうした時間は、主人公がずっと求めていたもので、同居していた家を逃げ出すように出て以来、久しぶりの熱く青臭く充実した時間を過ごす。そけを最後にその芸人で作家の男とは連絡がとれなくなる。

主人公の作家は、最新作を上梓したあと、父の地元の沖縄に里帰りする。酒浸りの父親とそれを優しく見守る母親、地元の人たち。いろんな人間がそれぞれに自分の世界を生きていると感じるのだ。

現在からすぐに過去の回想になり、現在の話になり、そして自らのルーツ探訪とも言える里帰りの話という三部構成になっている。芸術家を目指すやつが集まって暮らしていた上野の一軒家。そこで、プライドも彼女も一気になくすほどの事件が起こる。それからの人生は、そこから遠ざかるようにひっそりと暮らしてきた。が、主人公の記憶は時々怪しく、幻覚のようなものもある。やばいやつと思われても仕方ない。かつて仲の良かった親友と昔のような議論を交わすことで、まともな人間にもどったようだ。いや、ずっとまともだったのだが、世の中の方がまともではなかったのかもしれない。その後、物語の流れとしてはちょっと唐突に沖縄での生活描写になる。田舎から都会に一度出て、里帰りすると、両親の言動になんとなく違和感を感じるようになる。自分が都会のほこりまみれになったことを大人になったと勘違いして、自分が育った場所の日常がずっと続いているのを田舎ものだと感じたり、逆に自分の嫌なところを両親や親戚やその土地の人たちの中に見てしまい、自己嫌悪に陥ったり。

起承転結的なストーリーをどことなく求めてしまって、不満を感じてしまうのは、ミステリー小説ばかり読んでいるせいなのだろう。文章と行間を読みながら時間を過ごす楽しみを思い出した。

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