Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

喫茶店で松本隆さんから聞いたこと

タイトルの通り、京都の書店のオーナーである著者が、コーヒーを飲みながら松本隆が語った言葉を書き留めている。薄いけれど、ハードカバーのとても素敵な本だ。

作詞では物語が一番重要だと語る。「なんで自分は生きているのかって説明できない。説明はできないけど、なんとなく知ることはできる。なんとなく知った人間には物語がある」

孤独に慣れることをすすめている。「孤独は完璧にはコントロールなんかできないんだけれど、五割くらいはコントロールできるようになる。そうすると、すごく自由になれる」

音楽を聞く行為がCDを買うことからストリーミングになったことについては、ストリーミングってインフラじゃないか?と考えている。この視線は新鮮だった。なるほど。水がないと困るように音楽がないと困る、そんな状況を想定している。

歌詞の中に否定する言葉があると強くなるが、心理学的にはマイナスの方向に働くから、できるだけ使わないようにしているという。これは賛成だ。広告のコピーも本のタイトルも、「するな」という脅しがあふれていて、辟易しているからね。

ガラスの林檎という大ヒット曲は、レコード会社の人から「林檎」をカタカナにしてほしいと言われたという。子どもたちが読めないからという理由で。でも松本隆は断った。「読めないんだったら、これで読めるようになりますから」と言って。そして、その通りになった。こういうことは、日本の社会のあちこちにある。「私はいいんですけどね、みんなはどう思いますかね」とか言って。もちろんそれぞれ立場が違うから、どちらが正解ということではないのかもしれない。大企業としての立場もあるだろうし、売れっ子作詞家という強さもあるだろうし。でもおかしなことだと思うときは、おかしいと言うことも必要だと思う。世の中を変えるほどの力がないとしてもね。

作詞家で食うって決めたときのこと。自分の書きたい詞を書くためには、戦わなくてはいけなかったという。「ただやりたいことがある、っていうだけじゃ終わらないんだよ。それは始まりでしかなくて、ちゃんと土俵を確保して、そこで巡業して、人気を取って、お金を儲けて、それで初めてみんなが納得する。そこまで証明しないといけない。それが戦うっていうこと」

あの静かな松本隆の口調と声で聞こえてくるような言葉に、胸の奥が温かくなった。