Life and Pages

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ザリガニの鳴くところ

タイトルに惹かれたのと、わたしのまわりでとても評判がよかったので読んでみた。約500ページ。読みごたえのある本でとても面白かった。

ノースカロライナ州の湿地で村の青年の死体が発見される。人々は「湿地の少女」と呼ばれているカイアを疑う。カイアは幼い頃から家族に見放され、ただ一人、湿地の家で生き抜いてきた。退役軍人で家族に暴力を振るう父に耐えかねて、子供たちは次々と家を出て行き、カイアの母も出て行ってしまう。そして父までも。カイアは魚や貝を捕ってはお金に換え、一人で生きていく。手をさしのべてくれたのは雑貨屋の黒人店主夫妻だけ。孤独に耐えながら、自分で自分を作り上げていく。

物語はカイアの生い立ちと事件の調査から裁判までが交互に語られる。殺人事件を追うミステリー小説であり、カイアの成長譚でもある。1950年代から60年代にかけてのアメリカ南部の暗さが物語の通奏低音となっている。「ホワイト・トラッシュ」と呼ばれる最下層の貧乏白人だったカイアの一家は、貧困と偏見の中で生きてきた。それとは対照的に、さまざまな生物が棲む湿地の自然が美しく描かれる。豊かな自然の中で知恵を使い、自活しながら成長する一人の女性。自然を観察し、言葉を学んで詩を作る。彼女は自分だけの素晴らしい世界を作り上げていく。野生動物学者である著者の、自然についての描写力がこの物語をスケールの大きなものにしている。

カイアは最後まで自分の心の奥にあるものを誰にも明かさなかった。孤独な人生。何にも流されずに築き上げた自分だけの王国。豊かな暮らしとはなんだろう。言葉の軽さと無言の重さ。適切な言葉を学ぶことの重要性と詩の可能性。読後にさまざまな想いがいまも頭の中を巡っている。

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ