Life and Pages

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「科学的」は武器になる

著者の早野龍五さんを知ったのは、東日本大震災の時、ツイッターで客観的なデータを発信されていたのがきっかけだった。この震災の直後は様々な情報がツイッター上で飛び交い、今で言うフェイクな情報も多かった。その中で、憶測で何かを言ったりすることなく、公開されているデータをグラフにするとこうなる、というような情報を発信し続けてくれた。それ以来、フォーローをしているのだが、当時の肩書きを拝見するとCERNのプロジェクトリーダーではなかったかと思う。CERNと言えば「天使と悪魔」で反物質を作ったところではないか! とびっくりしたことを覚えている、その後、糸井重里氏と共著の本を出され、現在はほぼ日のフェローでもあり「スズキ・メソード」の会長でもある。その早野さんの、興味深いタイトルの本が出た。

早野さんの生い立ちの話もとても面白いのだが、現在の自分の立場を、組織の中の科学者として位置づけ、その意義、重要性について説明している。企業や通常の組織には普通は科学者はいない。つまり科学的なものの見方ができるプロはいないということだ。経営には多くの数字を読み解く事が必要だが、金銭の出入りなどは追うことはできても、目の前の事象の隠れた意味を読み取り、どんな未来を予測するのか、という視点には科学的なものの見方が必要になる。数字に限らず、日々の仕事の中でも、客観的に物事を見る力は必要なのだが、多くの場合、経営者の経験と勘に頼ってしまう。また、企業の中の人や経営コンサルタントが議論したとしても、同じような考えの人が集まっただけ、と言うことになりかねない。そういう意味で、全く違う文脈で生きてきた科学者が組織にいるのはとても意味がある。むろん、それを自慢するわけではなく、客観的に自分の役割を伝えているだけなのだが、それ事が科学的アプローチということなのだと思う。