Life and Pages

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誰が、夢を見るのか

雑誌Numberに隔週で、いきものがかりのリーター水野良樹さんが書き続けているコラムがある。時々立ち読みをしていたのだが、それをまとめたのが本書だ。作詞家でもあるので、その言葉遣いはもちろんそういう見方をするのかと、ふーむと思う。スポーツの話の回ばかりではないのだが、どれも面白い。しかしその中でも、まえがきにあたる文章にいきなりびっくりしてしまった。

中学時代の水野青年はプロ野球の選手を目指して(に憧れて?)、部活動に打ち込み、その努力が認められてキャプテンを任される。リーダーとしてチームをまとめなくてはならない立場になったが、なかなか思うようにはいかない。悩める水野キャプテンに対して監督は「言うことを聞かない奴は殴っちまえばいいんだ」と言った。キャプテンは真剣に考えた。ひとを殴らなければ続けられないのなら、と野球部を辞めた。

そのことを自らのコラムに書いたところ、当時その学校にいた別の教諭から手紙が届く。あのとき自分は、の見方になってやれなかったと。

水野さんは誰かを非難した駆ったわけではなく、自分の最初の挫折について語っただけのつもりで、すでに自分の中では決着のついていたことだと思っていたのに、その手紙を読んで救われたという。

水野氏の書く詞が、人の思いや気持ちに届くのは、そんなつらいことをとても若い時に経験したことがあったからかもしれない。いや、中学生で、そんなしっかりとした判断のできる人だったからなのだろうか。

創作とは、自分の中の井戸をどこまでも深く掘りつづけ、一握りの真実の水を汲みだす行為なのだと、友人の作家と話している時に気がついたことがあった。楽なはずはない。自分を傷つけても、そうせざるを得ない、奇特な作家たちが紡いだ物語に出会えることの幸福はかけがえのないものだ。そんなことを思い出した。

誰が、夢を見るのか (文春e-book)

誰が、夢を見るのか (文春e-book)