Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

もうあかんわ日記

作者の岸田奈美さんはパラリンピックの解説番組にでていたかわいらしい女性だ。お父さんを早くに亡くし、お母さんは大きな病気をして車椅子に乗る。弟さんは明るい性格のダウン症、同居の祖母はすこしぼけていて、ほんの少し前に自分が言ったことも覚えていない。その中で、孤軍奮闘というより、家族と上手に付き合い、仕事をしながら前向きに生きている。この本は、今年の2月から4月にかけての日記だ。タイトルの通り、絶体絶命か!?と思われる局面をなんどもくぐり抜けサバイバルしている従軍日記である。だが、泣き言などほとんどなく、家族と自分のとほほな状況、あるあると思いながら本当に腹の立つ役所の対応などをユーモアのあふれる文章で描いている。読者は、笑ってしまいながらも、彼女の大変な日常、現実を鋭く見抜く言葉にうーんとうなり、気づかないふりをしている日本のおかしな真実をなんども考え直させられる。

それにしても、語彙が豊富で、例えが秀逸。そしてテンポのいい文章。関西の人は凄いなあ! という以上の文才である。そして、真理を突く鋭い言葉が紛れ込んでいる。たとえば、「ユニバーサルデザインバリアフリーを『だれにとっても便利で快適な安心なもの』と説明する人がいるし、わたしもかつてそうだったが、いまは『そんなもんねえぞ』と言い切る。」その通りだ。そして、次のように言い換える。「ユニバーサルデザインとは『だれにとっても便利で快適な安心なもの』ではなく、『前向きなあきらめと、やさしい妥協と、心からの敬意があるもの』だと、わたしは思う。」物事の本質をつく言葉だと思う。

とはいえ、なんでもかんでも、笑ってやりすごせるはずもなく、ここに書けないほんまもんの「もうあかん話」もたくさんあったと言う。そりゃそうだろう。でも、この著者のものの見方、秀逸なたとえ話になんども元気をもらった。間違いなく定期的に読み返す本になると思う。