Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

アルジャーノンに花束を

この本は以前読んだ。昨年、訳者の小尾芙佐さんの講演を聞いた時のメモを書く。
小尾さんは昭和7年生まれ。津田塾大学を卒業し早川書房へ押しかけ入社。SF担当。結婚後ご主人がハーバードへ留学する際に一緒に渡米、早川の特派員としてアシモフに取材。
中編作品として書かれたアルジャーノンを初めて読んだ時、号泣。SFに目覚める。1969年に長編の原書を渡され、翻訳に取り掛かる。翻訳にあたっては原文に忠実に、と決めているが、この作品は無理だと思った。主人公のチャーリーとIQが同じという山下清さんの放浪日記を参考にした。IQが上がると漢字が増えてくるようにした。後日、ダニエル・キイスが来日した時に話したら、彼もまたIQ68位の少年に文章を書いてもらって参考にしたという。
チャーリーに対しての思いは、年々変わってきた。最近では、チャーリーは救われたのだと思うようになった。
翻訳は「こだま」である。ある文化が染み込んだ言葉を全く別の文化の言葉にしているのが翻訳だ。翻訳者は原文を理解しないかぎり、文体を理解しないかぎり翻訳はできない。三島由紀夫、芥川、谷崎の文章を読め。スティーヴン・キングの人物の造型はすばらしい。