Life and Pages

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家族だから愛したんじゃなくて愛したのが家族だった

タイトルからもうすごいのだが、元気にさせてくれる文章を書く人だ。著者が中学生のときに父親が突然亡くなる。それも、彼女が「お父さんなんか死んじゃえ」と言った日の夜に倒れて、そのまま入院してまもなく亡くなられた。なんという体験だろう。親子げんかの常套句が、違う意味を持ってしまった。そしてそこから、彼女の人生が動き出す。

そして、母も倒れて車椅子の人になり、弟はダウン症。絶望的な気持ちになっても仕方ないような境遇なのに、この作家は明るいのだ。そして、自分の考えを文章にするのがとても上手だ。耳がいいのだと思う。父親の言葉、母親の言葉、弟の言葉を受け止めて自分で考えて文章にする。

母親も病気から回復して、もう歩けないことがわかったときは絶望的になるが、娘の言葉に支えられ、だんだんと強く明るくなっていく。もとに戻っていく、というべきなのだろう。この母親の言葉もすばらしい。「人を大切にできるのは、人から大切にされた人だけやねんな」

弟も自分のできることをしようとする。そしてできるのだ。姉とふたり旅にでて、バスに乗ろうとしたとき、小銭を用意してくださいと言われてパニックになった姉に頼まれ、両替してきてと千円札を渡される。彼はなんとコーラを買っておつりの小銭を持って戻ってきた。両替はできなくても、求められていることにしっかりと応えたのだ。

それとこの本の装丁が素晴らしい。祖父江慎さんのデザイン。本文中にぴらりと一枚、小さめの家族写真が挟み込まれている。この写真に家族の関係がすべて映っている。そして、弟君が一生懸命書いた数字を使って、ページ番号が組まれている。紙の本はこういうことができるだ。すごい。最近で一番うれしかった本。

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった