Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

言葉の人生

小田急線の電車のアナウンスは、日本語に続いて英語でも流れる。"Doors on the left side will open."と外国人女性の声が車内に響く。片岡義男はこの"will"が気になる。電車が次の駅に到着する前に、何らかの事情が生ずれば、左側のドアは開かないかもしれない、と感じる。ドアの意思と呼んでいるそうだ。

また同じ外国人女性は、" The next stop is Shin-yurigaoka. The stop after Shin-yurigaoka will be Karakida."とも言う。これを聞くたびに、次に停まるのは唐木田ではない可能性があるのかな、と思うのだそうだ。そして、isとwill beを使い分ける基準は何かと考えた片岡義男の結論は、isがあまりにあからさまなので、半分ほど覆い隠す目的で、will beを使っているのではないかと、ということだった。うーむ。

この本はサンデー毎日に連載されている片岡義男のコラムをまとめたものだ。バイリンガルの著者が毎週、巷にあふれるカタカナ語を考察する。とはいえ英語の先生や評論家ではない現役作家の視点は、文法の話を通りこえて日本人の意識にまで至る。カタカナ語も、戦後すぐの頃と、現在では、ずいぶん違ってきている。

もともと日本になかった、外国から輸入した新しい概念は、とりあえずカタカナ語にすることで、日本語の名詞として取り込むことができる。さらに「する」をつけて動詞として使うことができるし、短縮してしまえば、新しい日本語の出来上がりだ。正しいとか、間違っているということなどではなく、言葉を使う人の気持ちの動きまで考えいくさまが、今も現役の作家であり続けている秘密なのだと思う。

言葉の人生