Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

歌うように伝えたい

朝ドラ『あまちゃん』でいつも喫茶リアスのカウンターの短い辺に座っていた、琥珀の勉さんこと塩見三省さん。なんだか気になる俳優だったが、あのあと、大病をされていたことは知らなかった。ドラマ放映の翌年、2014年3月の寒い日、脳出血で倒れ、その後遺症で左半身が麻痺し手足障害が残った。その後、北野武監督の『アウトレイジ 最終章』にも出ていたが、そんなに大きな障害を抱えていたとは。

自暴自棄になりかけた日々をどうにかこうにか乗り越え、今は新しい自分と付き合いながらプライベートと俳優と両方の人生を前向きに生きている。そうした日々の葛藤をiPadに右手の人差し指一本で綴ったという文章が素晴らしい。

文章を書くことを勧めたのは星野源だという。彼も大病を経験している。塩見さんが病気の後に源ちゃんとドラマで共演したときの会話の中で、自分も病のことをエッセイで書くことで一区切りつけられたから、と。そして俳優の中にため込まれていた感情は、日記のような文章として世の中に届けられる事になった。北野武も、あの大事故を経験して、今がある。映画のオファーを受けてから、はじめて会ったとき、塩見さんは「こんな体になりました」と正直に自分をさらけ出す。武はその姿を見て、「うん、それじゃよろしく頼むね」と言っただけだという。すべてを受け入れてくれたことに、俳優塩見三省は必死で応えた。そして、賞を取った。

障害者と健常者が共生できる社会を、などと安易な言葉にしてしまうとこぼれ落ちてしまうものがあるが、そんな分類によらずに人間と人間がつきあっていける日常生活がいい。折しも、東京パラリンピックに出場したアスリートたちの活躍によって、こころに力をもらった。世間には、病人も老人もけが人も子どももおっさんもやばいひとも、もっともっといろいろんな人がいて、それで動いている。画一な人ばかりが出てくるのは初期のハリウッド映画の影響なのか知らないが、日本のテレビ放送も、かってに登場人物を画一化してきた。日本の社会も、いろんなことを見えないようにしてきた。まるで最初からいなかったみたいに。

特別な配慮とかいうことではなく、その俳優の演技に、その本の文章に、いいと思ったら拍手を送ることだ。誰が演じた、誰が書いたという、メタ情報に判断させないで。