Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

なんで僕に聞くんだろう。

写真家の幡野広志さんのもとに届く人生相談に、幡野さんが答えていく本だ。言葉の切れ味がすばらしい。私も文章を書くときは、できるだけ誤解が少なくなるような言葉を選んで書いているつもりだが、この本の文章の切れ味は恐ろしいほどだ。私の文章はナイフのように鋭くありたいと思っているときに、幡野さんの文章は天才外科医のメスのように鋭い。相談してくる相手の文章を隅々まで読み取り、相手の本音を鋭く切り開く。あまりの鋭い切れ味に、相談してきた人は、自分がばらばらにされているのに痛みも感じないかもしれない。あまりにスムースに、メスが動いたからだ。それは、相手を傷つけるための言葉ではなく、相手を理解し、相手のためになることをまっすぐに伝えるからだ。写真家だから観察力が鋭い、とかいう短絡的な発想を軽々と超えて、この人の考えの深さに驚嘆する。

本当に自分の頭を使って、とことん考え抜いているのだ。必ず答えを出すと覚悟した人の言葉だ。借り物ではない、自分の中から出てきた言葉だ。それゆえに重いこともあるが、間違いなく的を外さずに肝心のポイントに投げ込まれる。相談の内容は、私には関わりないなと思うようなものが多いが、その言葉の強さ、正確さに、何度もうなってしまう。てきとーな相づちばかりのワイドショウの司会者や、賢く見せるために必死なビジネスマンの話を聞くのに疲れてしまっていた昨今に、言葉を使うことの真剣さを見せてもらった。

「悩む人というのは悩んでいるのではない。不安なだけだ」

「言葉で人の歩みを止めることも、背中を押すこともできるのならば、できるかぎりぼくは背中を押す人でありたい」

これはきれいごとではない。覚悟を決めた人の真剣な言葉だ。

なんで僕に聞くんだろう。

なんで僕に聞くんだろう。