Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

僕のなかの壊れていない部分

読書会のためにこの作者の作品をはじめて読んだ。読者は主人公の思考とともに、この本を読み進めていくことになるのだが、私は、この主人公に共感できぬまま、最後のページまでたどり着いてしまい、どこにも持って行き場のない思いがたまり、それをどうしたものかと考えあぐねている。

主人公は29歳の大手出版社に勤める編集者で、二歳のときに母に捨てられたという幼い頃の記憶がトラウマとなって、生きることに意味を見いだせないでいる。彼は同じような思いをもつ若者に自分のアパートの部屋を開放する一方で、3人の女性と同時につきあっている。一人からはお金をもらって性の相手となり、一人は小学生の息子を持つシングルマザー、そして3歳年下のスタイリストの彼女。主人公は相手の気持ちを考えたりはせず、自分の考えだけに従おうとしているので、結婚などは考えてもいないし、相手の思うように振る舞うのもいやだ。物語の途中で、一度は自分を捨てた母親が病死し、その葬儀から一週間も経たないうちに、年下の彼女の実家へ泊まりに行き、相手の両親の考えや言葉に反発して、夜のうちにその家を飛び出す。

誰もがいびつな世界観を通して、この世を眺めているのは事実であって、それを否定する気はない。しかし、この主人公は、自分の言葉に責任を持つといいながら、その言葉が相手に及ぼす影響については、まったく考慮していないし、自殺や死については分析的に考えようとしているわりには、「平凡な幸福は欲しくない」などと、とても曖昧な言葉遣いで物事を定義しようとする。記憶力がよく、東大出の秀才の編集者という設定なのだが、独りよがりの青臭い書生のように感じた。

 

僕のなかの壊れていない部分 (光文社文庫)

僕のなかの壊れていない部分 (光文社文庫)