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NHKスペシャル 彼女は安楽死を選んだ

一人の女性がスイスに渡り、安楽死という方法で最期を迎えた。おだやかに、そっと。

彼女は原因不明の全身の筋肉に力が入らなくなる難病になり、少しずつ自分の体が自分でコントロール出来なくなっていく。ある日、入院していた病院の医師に勧められ、同じ病気を持ち、さらに進行した人たちが入院する病院を見学に行くことになる。いつかは、自分が入院するかもしれない場所だ。彼女は呼吸器につながれ、自分の意志では何も出来ない人を見て、考え込む。生きるとは、人の尊厳とは、何なのか。それから何度か自殺を試みるが、衰えた筋力では自殺すらままならなくなっていた。

二人の姉が見舞いに来てくれるのだが、彼女は全面的に頼ることができない。それは性分なのだ。そして、彼女は安楽死について学びはじめる。日本では認可されていないが、スイスでは、条件が整った人たちに安楽死を選択させてくれる施設があった。人の尊厳を守るための1つの選択肢として、医師たちが運営している。スイスでは、国中で安楽死についての議論が長くなされてきた結果、こうした施設が出来たのだという。安楽死を認める条件とは、自分の意志であること、完治しない病気であることなどだ。彼女はスイスの施設にメールを出し、自分が自分であるうちにと、スイスへ二人の姉と共に渡る。そして、姉たちが見守る中、自分で点滴を開く。

幡野さんの本を読んで間もないタイミングで、この番組をみた。生きること、人間、家族、いろんなことを考えさせられる。彼女の妹はただひとり、最後まで、安楽死しないでと訴えていた。一人ひとり、生きることに対する考え方は違う。でも、そうしたことを話す機会さえないまま、一生を終える人の方が多いのではないか。二人の姉は、以前家族みんなで出かけた場所に、二人で花見に行った。お弁当と彼女の写真を持って。もう会うことはできないけれど、彼女の不在は大きな存在感を持って、二人の胸の中にとどまっている。自分の死は自分の生と一体のものだ。人間は少しずつ死んでいく、とはキケロの言葉だったか、村上春樹の小説の中の言葉だったか。悲観ではなく、自分のこととして、死は生々しく、日常と地続きだ。