Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

息子たちよ

日常生活の合間にさまざまなことを思い浮かべながら、そういえばあの本にはこんなことがあったと話してくれる。あるいはこの本で描かれている風景は、自分にとってはこういう意味を持つ、と教えてくれる。書評家の記憶力というのはすごいものだ。ご本人とお話したときは、出来事の記憶についてはディテールのあやしいところもたまにあったけれど、本についての記憶は本当にすごい。

普段は会社に泊まり込んで仕事をしていて、家に帰るのは日曜日に競馬が終わった後、夜になってからだ。そして月曜の朝に会社に行くと、次に家に帰ってくるのはまた次の日曜日の夜。そんな生活を何十年と続けながら、二人の息子はすくすくと、もしかしたら父親を反面教師として成長した。そんな父親が、息子に会わずにいた間、本を読みながら何を考えていたのかを書いた本だ。そんな想いがタイトルになった。

私は日本人作家の本はあまり読まないのだが、この本で紹介されたなかには読んで見たいと思う本がたくさんあった。でもこれで日本人作家の本を読み出すと本当に時間がなくなってしまうなあ。そして、この本で紹介されるのは、概要ではなく、あるシーンについてだけだったり、家族との関係だけなのだ。本全体の出来映えとはすこし距離を置いて、そんな読み方もできるのだなあと感心した。たくさんの本を読んで来たからこそできるのだろうけれど。

本好きで競馬好きのおもしろいおじさんは健在だ。

息子たちよ

息子たちよ

  • 作者:北上 次郎
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/01/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)