Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

スクリーンが待っている

映画監督の西川美和さんの新刊。映画を制作しながら小説誌に連載した時の文章をまとめたものだそうで、そのため最初の頃はまだ公表できないことが多く、映画のタイトルも俳優の名前もでてこない。それが連載が進むにつれ、だんだんと輪郭が見えてくる。思いがだんだんと形になっていく様子を追体験しているようで面白い。

ある作家の訃報に触れ、その作家が書いた一冊の小説に心をひかれる。すでに絶版になっていたその本を探し出すところから、映画作りが始まる。そしてプロデューサーに言われてベテランスタッフを外すことを決意したときのこと、取材でお見合いの会にスタッフとして参加した日のこと、刑務所に取材で行ったときのことなどが語られる。映画監督ってこんな風に物語を作り上げていくんだ。なるほどと思う。小説であれば言葉で表現することで、SFもファンタジーも成立する。もちろん作家の力量が問われるが。しかし映像にする場合には、人物はもちろん小道具も大道具もそれなりに見えなければならない。誰も知らないものなら、適当に作ってもいいだろうけれど、世の中に存在するものは、できるだけリアルに具現化しなければならない。

また、小説が書かれた当時の時代を再現するのであれば、それはそれで大変だが、西川監督は昭和の物語を現代に移すことに決めた。となると設定を変えなければならないところが出てくる。主人公のアパートの部屋の一階に住む人は、ちょっと悪そうな新聞拡張販売員だったが、監督は外国人技能実習生に変えた。それと、日本では特に鉄道関係をロケ地にするのは大変だそうだ。ほとんど貸してくれるところがない。CMや現代ドラマでは、京王線などで撮影されているが、新幹線となるとまったくダメらしい。

八千草薫さんに出て頂くことになっていたのだが、体調を崩されて出演はかなわなかった。その経緯と後日譚も素敵な話だ。まずは、この映画を見なくては。「すばらしき世界」を。

スクリーンが待っている

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