Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

長いお別れ

この本はもう何度読んだことだろう。手元にあった清水俊二訳は昭和54年! そして村上春樹訳もあわせて読んだ。翻訳の課題だったので再読したのだが、自分で訳そうと思って読むと、深く読む。そして、原書の単語の選択にとまどいながら、イメージを作り上げ、訳語のうまさに舌を巻く。いくつかは、自分が考えた訳語の方がいいのではないかとも思ったりするが、一冊を通して作り上げる物語の世界観には敬意を表するしかない。

あらすじなどは書くまい。好きな人はとっくに読んでいるし、そうでなければ関係ない。ハードボイルドというジャンルは、かつてしっかりと確立されていたし、いまも犯罪小説の通奏低音として存在し続けている。文体とキャラクター、そして人生についての生身の哲学。殴られ蹴られ撃たれ拷問に遭い、何人かは命を落とす。美人も登場するが、お飾りの女性ではなく、自分の足で歩いている。

何本もの映画になっていて、それも好きだが、小説の中のフィリップ・マーロウが一番だ。好きすぎて、日本映画やドラマでハードボイルドの探偵を謳ったものはずっと避けてきた。そうではないんだとつぶやきながら。今回、再読(再々再々再々読?)して、やはりチャンドラーの小説は好きだなあと改めて思った。そしてずっと忘れていた自分の想いや決意なども思い出した。小説はいい。