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ブラウン神父の無垢なる事件簿

ブラウン神父の新訳が出たので、久しぶりに読み返した。こんなに面白かったのか、というのが第一印象。以前読んだ時は、謎解き物の一つとして大量に読んだ探偵物の一冊ということしか記憶にない。今回再読してみて、かなり面白い小説だということを発見した。解説で新保氏が書いているように「先入観は裏切られる」のだ。ブラウン神父は人間の思い込みを観察して、トリックの真相を明らかにしていく。今の時代であれば、メンタリストという人たちの視点に近いのかもしれない。
学生の頃、先輩の麻雀を後ろから見ていたことがあったが、その先輩は牌を取ってきた順のままで並べ替えずに打っていた。彼の頭の中では、それでも上がり手が構想できるのだろう。この本を読んでいて、そのことを不意に思い出した。ブラウン神父が謎解きをしてくれると、はじめて、一つ一つの手がかりが意味のある組み合わせになっていることに気づかされる。理牌せぬまま、役満まで持っていくのだ。強引に思えるところもあるが、その小気味よさは快感を覚える。
ふと思った。なぜ、神父が探偵役なのだろう。みんなが相談できて、信頼できる立場で、死者が出ると呼ばれるからだろうか。身近に神父様がいない私にとっては映像で観るよりも、この小説を呼んで勝手に主人公を想像しながら楽しむほうが相応しい。でも、ドラマ「相棒」の右京さんに似ているかもしれないとも思った。一見、関係ないようなところを調べ、物腰柔らかな聞き込みで、真相に迫っていく。相棒の主人公はブラウン神父の系譜にあるかもしれない。

ブラウン神父の無垢なる事件簿 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ブラウン神父の無垢なる事件簿 (ハヤカワ・ミステリ文庫)