表題になっている「ごあいさつ」では、二人暮らしの姉妹の家に一人の女性が姉を訪ねてやってくる。応対に出た妹に、その女性は「お姉さんに主人がいつもお世話になっているようなのであいさつにきた」という。姉の不倫相手の奥さんだ。
その話を聞いた姉は、家に帰ってこなくなり、妹は時々やってくるその女性に応対をする。事務的に。昼ドラがやってきた、と言って。それでも、何度もあいさつだけの会話を交わすうちに情が移り、姉に家に帰ってくるように言う。とはいえ、そんなことで何も解決しないで日々が続いていく。
「ジョニ男の青春」では70年代のヒッピーのような風体のAIロボ、ジョニ男が登場する。未婚の母になった女性が相手の男性と話すために、ジョニ男をレンタルして、わたしはジョニ男さんと結婚します! と言う。おかしな話と思いながらも、人間の感情は動く。ジョニ男は有能なのか、ぽんこつなのかわからない。でも、AIの現在って、そういう感じがする。なんか、リアルだ。
普通の一日の中には、大きなドラマなんかないよ、と言われたようでもあり、いや、充分に面白いことが日常にはあるよ、と言われたようでもある。不思議な読後感が残る一冊だ。