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あなたを愛してから

なんとも不思議な話だった。早川ポケットミステリーの一冊なのだから、ミステリーなんだと思って読んでいたけれど、いろんな要素が組み合わさったストーリーだった。読後も、これはミステリーなのか? と思う。謎解き、探偵、殺人事件、秘密、それに父親探し、パニック障害が組み合わさり、さらにまだまだいろんな要素が入り込んでいる。しかも主人公が自分の夫を撃ち殺す場面から、この物語ははじまるのだ。

レイチェルは、母の死後、自分の父親を探しはじめる。まだ幼いときに家を出て行った父親のことは、ジェイムズという名前しか知らない。心理学者でベストセラー作家だった母親は父親のことを一切話さなかったし、何の手がかりも残してはくれなかった。彼女は探偵を雇って、手がかりを探し始める。そして父のことだけでなく、母親の人生もたどることになる。

ジャーナリズムの世界に入ったレイチェルは、ハイチの大地震の取材中に感情が壊れてしまう。テレビの生中継でその姿を多くの視聴者に晒したために、仕事はクビになり、彼女自身も精神障害に陥り、家から出られなくなる。そのあたりから先は、ローラーコースターに乗ったように、話は進み、なんども振り落とされそうになりながら読者は必死でストーリーにしがみついて、453ページの最後の行まで突き進むことになる。

ロマンティック・サスペンスという分野があるそうだが、この作品は女性の一人称でストーリーが進み、恋愛小説とも言えるだろう。自分の中の不安と折り合いをつけながら、いくら愛している男でも、その言葉を額面通りには受け取らない。何かを指示されても、自分がゲームを主導できるようにしか行動しない。たとえ自分の命が危険にさらされるとしても。スーパーマンではない一人の女性が、自分ができることを常に考えながら、不安を抱え、愛情の火が消えてないことも認め、一歩ずつ踏み出す。そして小説の最後も、はっきりとした決着をつけないままで物語は終わっているので、レイチェルはまだ相手になんと言うのか、考えている最中なのかもしれない。

 

あなたを愛してから (ハヤカワ・ミステリ1933)

あなたを愛してから (ハヤカワ・ミステリ1933)