Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

デラックスじゃない

はじめてテレビでマツコを見た時、その雰囲気に圧倒されてしまった。オカマだということはわかったが、新しいジャンルだと感じた。それまで見てきたオカマな人たちは、限りなく女性に近づこうとする人たちか、おっさんであることを隠さずオバさん的な女装をした口の立つ人たちで、マツコはどちらかといえば後者のグループには属するだろうが、男か女かということを超越した、巨大な体を一枚の布に包んだ姿は目に新鮮だった。そしてトーク力が違っていた。二丁目近辺の人たちの頭の回転の速さと適切なことばを使う能力の高さは以前から知っていたが、その多くは辻斬り的に世の中の事象を片端から切り刻んでいく芸を魅せつけるためのものだったが、マツコのトークには時に真実を語る前にためらいがあり、相手の話を聞いてその場で考えを変えたり当惑したりする様子がテレビから伝わってきた。毒舌を吐くだけの人ではなく、とりあえずの発言でお茶を濁す、司会者的な優等生ではもちろんなく、賛成出来ない時でも、自らの視点をはっきりさせる姿勢をみて、この人の言うことは好きだなあと思っていた。この本を読んで、雑誌の記者をしていたと知り納得した。表面的に事象を見ても、そこから本質的な批評を紡ぎだす力があるのだ。そして、喋っているのと同じように文章を書けるのは、相当の筆力だと思う。迷いながら生きている、と書いているように、テレビのなかでも迷う様を見せてくれる。風貌は決して一般的とはいえないが、一般人の代表のようなやくわりを果たしてくれているのだと思う。口調も普通の話し方で、それが文章にも現れている。ワイドショーのキャスターになって、偉そうな口調になってしまう人もいるが、マツコは決して偉そうではない。ラジオ番組などの方が、もっとマツコらしいメディアかもしれない。