映画監督の西川美和さんの新刊。映画を制作しながら小説誌に連載した時の文章をまとめたものだそうで、そのため最初の頃はまだ公表できないことが多く、映画のタイトルも俳優の名前もでてこない。それが連載が進むにつれ、だんだんと輪郭が見えてくる。思い…
近頃、いきものがかりの歌をよく聴く。いい歌が多いなあとずっと思っていて、歌詞をじっくりと読むと結構深い。そして、あのボーカルのまっすぐな歌い方のおかけで、まっすぐに胸に届く。歌うテクニックという意味では、もっと上手な人がいると思うが、伝わ…
創作についての本はたくさんあって、何冊も出ているのだが、このタイトルに惹かれて読んでみた。作家志望の人からの質問に答えていく、という形式で書かれているのだが、実際に講演会場などで質問されそうな、どうでもいい(と思える)質問にもしっかりと答え…
著者の早野龍五さんを知ったのは、東日本大震災の時、ツイッターで客観的なデータを発信されていたのがきっかけだった。この震災の直後は様々な情報がツイッター上で飛び交い、今で言うフェイクな情報も多かった。その中で、憶測で何かを言ったりすることな…
クララは人工親友という存在だ。ジョジーに選ばれて、彼女と一緒に暮らすようになる。AIを備えた彼女は自分でどんどん学習し、自分なりの考えや信念を持つ。20世紀の文学で描かれた信念を持って行動した黒人たちや、異端と言われながら信仰を捨てなかった宗…
翻訳学についての本であり多くの気づきを得た。翻訳のシンポジウムなどでは、原書で描かれた「絵」を日本語で描き、同じ絵を示す事だという趣旨の話を聞く。原理としてはわかっていたが、この本では原書で書かれていた「現実 IDEA」を日本語で再現するという…
セラピードッグという存在によって、長年沈み込んでいた人が明るくなったり、寝たきりだった老人に笑顔が戻ったりすると聞いたことがあった。この漫画はあるセラピードッグの一生とそのパートナーとなった青年の日々を描いている。フィクションなのかもしれ…
師匠の翻訳生活40周年の振り返り本だ。高校の英語教師時代から翻訳を始め、その後翻訳家として一本立ちして、現在までに訳書は200冊以上を超える。ミステリー、ハードボイルドファンならたぶん田口俊樹訳の本を一冊は読んだことがあるのではないだろうか。 …
雑誌Numberに隔週で、いきものがかりのリーター水野良樹さんが書き続けているコラムがある。時々立ち読みをしていたのだが、それをまとめたのが本書だ。作詞家でもあるので、その言葉遣いはもちろんそういう見方をするのかと、ふーむと思う。スポーツの話の…
翻訳家の鴻巣さんが母校の小学校で翻訳教室をしたときの話だ。英語の単語も文法もあまり知らない小学生に、英語の絵本を翻訳してもらう。しっかりとガイドしているからだけれど、翻訳とは何かを減点に戻って教えてくれる。そうなんだよ、しっかりと書かれて…
ダン・ブラウンの小説は世界同時発売する際に、秘密を守るためのルールーがかなり厳しかったと、日本語版の翻訳を手がけた方が書かれたものを読んだ覚えがあった。で、それを元に作られたと聞いていたので、どんな映画かと思っていたら、予想もつかない展開…
大陸の山間にある寒村は、足がなかったり、耳が聞こえなかったり、目が見えなかったりという人しか住んでいない。みんな助け合って農作業をするが、たいした収穫は望めない。年に一度の祭りの時には皆が歌や踊り、そして特技を披露する。その村を豊かにする…
もう何度も観ているのだが、椿三十郎と混同していたところもあったので、今回はっきりとわかって良かった。本当によくできている映画だ。思ったよりも喧嘩などのシーンは少なく、テンポ良く話が進む。役者がまた凄い。黒澤映画でおなじみの顔ばかりだが、人…
又吉直樹の三作目。二作目は読んでいないのだが。 三十八歳の主人公はライターなどをしながら本を出版し作家と認められるようになった。そこへ昔の友人から一通のメールがとどく。若い頃に数人で一緒に一軒家で暮らしていた時代があり、その頃の同居人の一人…
この映画を観たのは何回目だろうか。年末にWOWOWで三船敏郎特集をやっていたので、録画して観てみた。映像がきれいだ。三船が生き生きとしている。京マチ子が美しい。志村喬、千秋稔、安心して観ていられる。そして、ストーリーの謎が残る。古くならない映画…
父の事を思い出した。亡くなってから20年以上過ぎている。父は石油の掘削の技師だった。若い頃、仕事中に石油の井戸を掘るドリルの刃の破片が目に入り、片目を失明した。とはいえ、見た目は全くわからず、片方の目だけで運転もしたし、仕事も日常生活も普通…
中国の寒村の物語。住民のほとんどがまもなく死にゆく運命にある。貧しい暮らしから抜け出そうと売血を勧められ、エイズに罹ってしまったのだ。最初は3ヶ月に一度だったが、現金ほしさに1ヶ月に一度になり、2週間に一度になり、もっと短期間で売血するものも…
去年いやその前の年かな、ラジオでやたらと「君は綺麗だ」と歌うのを聞いて、へえーと思ったことを思い出した。好きな女の子に対して僕は「運命のヒトじゃない」と言い、僕にとって君は何かと男の子は自問する。そして、確かなことはひとつ「君は綺麗だ」と…
今年初めてアメリカ人の友人と話す。話題は、2020年を振り返る、ということになった。コロナ禍については、「あのときこうしていれば」というHindsiteはいくつもあった。ダイヤモンドプリンセス号の時にうまく対応できていれば・・・。春節の前に警戒していれば…
昨年末に再放送されたドラマ「テンペスト」を10回分まとめて観た。幕末から明治にかけての琉球王朝の物語を描いたこのドラマは、2011年に放送されたものだ。首里城でロケが行われており、今は観ることのできない美しい王宮内部が映し出されている。 琉球王朝…
イギリスに住む著者の身の回りにいるおっさんたちの観察日記。なにかと悪者にされがちなおっさんたちが、ワイルドサイドでしぶとく生きている様を優しい目で眺め、愛おしい存在として描いている。そして彼らのリアルライフを描いていくと、ブレクジットの話…
上野千鶴子さんと出口治明さんの対談。京大の同期なのだというが、全然違う個性のようだが、リベラルで合理主義の教育者というのは大きな共通点だ。いくつも名言があったのだが、なかでも多様性とは個性を尊重することで、それは合理性を重んじることだ、と…
すすめる人があって、この本を読む。柳瀬尚紀といえば、ユリシーズなどの翻訳を手がける翻訳の大家である。ここでは、持論を展開にするにあたって、世に出ている翻訳書の訳文を取り上げ、自分あればこう訳す、というか、このようにしか解釈できないはずだと…
むかしむかし森に暮らす夫婦がいた。夫は侵略者によって毎日土木工事をさせられていた。妻は食べ物になりそうなものを探して歩くがたいしたものは見つけられない。それでも毎日毎日森の中に出かけていった。貧しいけれど子供がほしいと毎日神さまに願ってい…
全米図書賞受賞ということで、ミーハーにも、初めてこの作家の本を読んでみることにした。平成天皇と同じ年に生まれた主人公は東京オリンピックの前年に鹿島から出稼ぎに東京にやってくる。結婚し、一男一女の子供にも恵まれたが、妻と一緒に暮らした日は指…
いろんな業界にプロデューサーを名乗る人がいるが、音楽プロデューサーは音楽を愛している人、映画プロデューサーは映画を愛している人、というように、作品作りが本当に好きな人でないとプロデューサーにはなれないのだと思う。そして作家視点とファンの視…
一学期の終業式の日、中学三年の福田みのるくんは、上半身裸でリュックをしょった少年と出会う。野球部を辞めたばかりのみのるは自分のユニフォームを少年にあげる。少年はなぜか、家までついてきて、よく見ると頭に一本角が生えている。あれっと思いながら…
「夢は追いかけた分、近づいてくる」そう言ったのは、ブラジルの国民的ピアニスト、ジョアン・カルロス・マルティンス氏だ。13歳でプロデビュー、何度かの災難に見舞われながらも、ビアニストとして活躍していたが、両手の指が思うように動かなくなり、2019…
不思議な物語の短編集。残酷なおとぎ話のような、夢で見たストーリーのような、アフォリズムのような。ことの顛末とともに、それにともなう感情を描こうとしているようだ。 二人の娘を持つ父親はある日、お腹に大きな穴があく。サーカーボールが入るほどの。…
ネットで紹介されていた中国文学の一冊。とてもいい話だった。ノーベル文学賞の候補にもなっている著者だそうだが、初めて読んだ。 先じいは、中国の山中の寒村で目が見えなくなった犬と暮らしている。年々、日射しが強くなり、雨も降らなくなって、農民たち…