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本や映画、音楽、日々の雑感

JR上野駅公園口

全米図書賞受賞ということで、ミーハーにも、初めてこの作家の本を読んでみることにした。平成天皇と同じ年に生まれた主人公は東京オリンピックの前年に鹿島から出稼ぎに東京にやってくる。結婚し、一男一女の子供にも恵まれたが、妻と一緒に暮らした日は指を折るほどの日数しかない。六十歳の年まで出稼ぎを続け、家に戻ったが妻が突然死んでしまう。息子にも先立たれていた主人公は家を捨て、上野でホームレスになる。

ホームレスとひと言で言っても、その実態を知ることはない。事件に巻き込まれた時に再認識することがほとんどだ。この小説では上野のホームレスの様子を垣間見せてくれる。

死んだ息子もまた、今上天皇と同じ年に生まれた。主人公は否応もなく、人生の節々で天皇陛下という存在を感じることになる。日本という国の現代史に天皇の存在が大きく関わっていることに改めて気づかされる。

淡々と進むストーリー。それは、日本の高度成長を支えた東北人の気質そのものだ。人の幸福をうらやんだりやっかんだりするのではなく、つらさと切なさを静かに身中に貯えていく。それはやがて極限に達する。静かに、杯から水がこぼれ落ちるように。

この本では、東北の言葉や真宗の経文が書かれている。この英訳はどのようになっているのだろう。気になるところだ。

JR上野駅公園口

JR上野駅公園口

  • 作者:柳 美里
  • 発売日: 2014/03/19
  • メディア: 単行本