Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

ワイルドサイドをほっつき歩け

イギリスに住む著者の身の回りにいるおっさんたちの観察日記。なにかと悪者にされがちなおっさんたちが、ワイルドサイドでしぶとく生きている様を優しい目で眺め、愛おしい存在として描いている。そして彼らのリアルライフを描いていくと、ブレクジットの話もアル中の乞食の話も医療の問題も出てくる。

若い女のホームレスがパブをまわって、小銭をたかっていると、おっさんたちは同情心からいくらかずつ渡してしまう。その場に一緒にいた大学生の息子は、「あげてはいけない。だって、その金で酒を買うんだから、アル中の治療を邪魔することになる」と言う。店員の黒人女性が外へ連れ出し、私もそういうところにいたことがあるからわかるけど、あなたもそこ(施設)へ行きなさいと言うと、ホームレスの女は、人種差別発言をその人に向かって言う。そして、おっさんたちが、パブを出て次の店に行こうとすると、さっきのホームレスが酒を飲んでいる。

タクシー運転手のおっさんが、酔っ払って夜遅くなり、大嫌いなUBERに乗って家に帰る羽目になったこと。

ベトナム人若い女の子が、がんで余命わずかなおっさんの最後の日々を一緒に過ごしたのだが、自分がもらえた遺産の学が少ないと憤る話。そしてまた、その女の子は、ロンドン滞在中に知り合った別のおっさんとWhat's upというアプリで連絡を取り合い、いい仲になって、こんどおっさんがベトナムに行くことになり、イギリス人の友人たちは、遺産目当てじゃないのかと疑う。その話を聞いた著者は、自分がイギリスに来たばかりの頃に、アジア人であるが故に偏見をもって見られたことを思い出す。なかなか複雑な話だ。

それから私は知らなかったのたが、NHS(National Health Service)という保険制度があって、イギリス人であれば誰でも、外国人でも合法的に滞在している人は誰でも無料化少額で医療を受けられる制度がある。しかし、税金での資金繰りが追いつかず、破綻に近づいており、風邪で診療を受けたいと申し込んでも、何ヶ月も先にしか予約がとれない。歯が痛くても、がんになったとしても同じだ。金持ちたちは民間の病院へ高額の医療費を払っていくので、NHSは、貧しい人や移民たちがあふれるようになる。それがイギリス人たちは気に入らない。トランプ大統領が民営化して、運用しようかと言ったらしく、それに腹を立てている英国人も多い。さらに、ブレクジット投票の際に、「離脱すれば週3億5千万ポンド(約500億円)のEUへの拠出金をNHSへ回せる」という噂がまことしやかに囁かれ、そのためにEU離脱に投票した人も少なくなかったという。

そんなリアルなイギリス社会が垣間見られてなかなか面白い。