Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

愉楽

大陸の山間にある寒村は、足がなかったり、耳が聞こえなかったり、目が見えなかったりという人しか住んでいない。みんな助け合って農作業をするが、たいした収穫は望めない。年に一度の祭りの時には皆が歌や踊り、そして特技を披露する。その村を豊かにする方法はないかと考えていた野心あふれる県長は、観光の目玉としてレーニンの遺体をロシアから買い取り、ここにレーニン廟を作ろうと考える。そして、その買収のための費用を村人たちの特技を見せて全国を巡業することでひねり出そうと画策する。巡業は大成功し、村人たちも大金を稼ぎ、いよいよあとはレーニンの遺体を入れるだけとなった、山の上のレーニン廟で巡業団は最後の公演を行う。そこで一泊した一段は、翌朝、稼いだ金がすべて盗まれたことに気がつく。健常者である「完全人」たちが盗んでいったのだった。失意の中で村に戻りたいと願う団員たちにまた別の試練がやってくる。

荒唐無稽に思えるほど大きな小説のアイデアが進行する合間に、寒村の描写、村人たちの切ない日常が描かれ、ハラハラしながらページを繰る手は止まらない。また、いくつかの言葉を注釈のように取り出しては、一章にあたるほどの文章量でそれまでの経緯や登場人物の過去、時代背景を書き連ねる。これはこの作家の発明なのではないか。

寒村の厳しい日常、大自然の猛威、人々の差別意識社会主義と資本主義のメリット・デメリット、女性活動家の理想を追うエネルギー、国家主義の身勝手さ、立身出世がすべてという生き方、日銭に翻弄される民衆、退屈で単調な日常の中で夢を見せいほしいと願う思い。そうした複雑な要素を小説という形にまとめ上げるこの著者の力量には驚かされる。

著者はあとがきの中でリアリズムが小説を駄目にしたのではないか、と投げかける。この本を読了した後では、深く頷くしかない。リアルでないからと、この本が読者に提供する体験を否定することはできない。個々に出てくる登場人物たちのあり方は痛いほど切ないほど胸に染みわたる。

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  • 作者:閻 連科
  • 発売日: 2014/09/26
  • メディア: 単行本