Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

2016-01-01から1年間の記事一覧

号泣する準備はできていた

ずっとタイトルが気になっていた小説だ。最近、この作家の対談を読んで、英語の直訳をタイトルにしたものだと知る。いいアイデアだ。内容は女性が主人公の短編集。彼や夫との関係性が変わっていく様子を描いている。主人公は関係が変わったとき、変わったこ…

アルジャーノンに花束を

この本は以前読んだ。昨年、訳者の小尾芙佐さんの講演を聞いた時のメモを書く。 小尾さんは昭和7年生まれ。津田塾大学を卒業し早川書房へ押しかけ入社。SF担当。結婚後ご主人がハーバードへ留学する際に一緒に渡米、早川の特派員としてアシモフに取材。 中編…

ジャングル・ブック

前からこの本の存在は知っていたが、今回はじめて読んだ。とてもおもしろかった。狼に育てられた人間の男の子の話で、ジャングルに棲む動物たちとの交流が描かれている。動物と人間を対立軸で描くのではなく、動物たちを必要以上に擬人化するのでもなく、「…

勝率2割の仕事論

クリエイティブエージェンシー、タグボートの岡さんの本だ。最近のテレビCMはつまらなくなった。メーカー発信の言葉ばかりで、役者にわざとらしい演技をさせ、あきらかにクライアントが承認しやすいような内容になっているが、テレビを見ている人の気持には…

映画 日本のいちばん長い日

昭和20年のはじめから、8月15日に玉音放送がラジオから流れるまでの日々に、当時の日本を支えていた様々な人々を描いた半藤一利の小説が原作だ。1967年に一度映画になっているが、昨年再映画化されたものを観た。淡々とした描写に事実を積み重ねて語ろうとす…

ジャックはここで飲んでいる

片岡義男は、まさにフィクションを作り上げる。こんな男と女はいないよ、と言って切り捨ててしまう人たちがいるのもよく分かる。彼が書くのは、人間と人間の関係性の話に限られている。それは、最初にどちらかが言葉を発し、それに対する受け答えから関係性…

コンカッション

アメリカン・ドリームは、野望を携えたものと、アメリカで生きることを選ばざるを得なかったものに寄って支えられている。後者であった主人公のベネット・オマルは、ナイジェリアからやってきた医学生だ。教育を受ける権利、能力主義、発言の自由。時折つき…

ブラウン神父の無垢なる事件簿

ブラウン神父の新訳が出たので、久しぶりに読み返した。こんなに面白かったのか、というのが第一印象。以前読んだ時は、謎解き物の一つとして大量に読んだ探偵物の一冊ということしか記憶にない。今回再読してみて、かなり面白い小説だということを発見した…

本物の英語力

鳥飼さんはNHKの英語の番組を通して以前からよく知っているし、何冊か著書も読んだが、本屋で立ち読みした時に気になる箇所があったので買ってきた。それは、「トップダウン・リーディング」と「ボトムアップ・リーディング」があるという指摘だった。トップ…

翻訳百景

著者はダ・ヴィンチ・コードなどの翻訳を手がけられている。翻訳の解説も見事で、永年教師をされてこられた方らしく、論理的で緻密な解説には納得させられる。翻訳者は「日本語が好き」「調べ物が好き」「本が好き」でなければいけないという。この条件なら…

翻訳問答2

翻訳家の鴻巣友希子さんと5人の作家が、英語の小説の一節を日本語に互いに翻訳して、語り合うという企画。前作では鴻巣さんが片岡義男さんと対談していて、とても面白かった。今回は、翻訳も行う作家の方がお相手なのだが、当然のことながら、それぞれが自分…

火星の人

火星探査に行ったNASAの宇宙飛行士が、嵐に遭って退却する際、一人が負傷し、消息不明となったためやむなく彼を火星において帰還する。だが、取り残された彼は生きていた。そして科学者の知識と柔軟な発想で生き延び、救出の日を待つ。だが、それは、4年先の…

翻訳という仕事

昨年12月に亡くなられた小鷹信光氏が49歳の年に出版された本だ。ヒントになることがたくさん載っていて、ご自身は翻訳専業ではないから、というのだけれど、翻訳という仕事にとても愛情があったということが読み取れる。それにしても、出版業界の状況という…

映画 フルメタルジャケット

ずっと観たかったキューブリック監督の映画を録画でようやく観た。タイトルは軍用の銃弾の意味だと初めて知った。アメリカの若者たちが次々と坊主頭にされていくシーンから始まり、海兵隊訓練所の過酷な日々。そしてベトナムでの戦闘が描かれている。デブと…

漆黒の霧の中で

伊之助シリーズ2作目。順番通りに読まなかったけれど、これで3冊シリーズを読了した。伊之助が川から引き上げられた水死人を目撃したことから物語がはじまる。ついつい昔の癖で身体を改めると急所を一刺しされた殺人事件の被害者だとわかる。そして、同じ手…

もう過去はいらない

バック・シャッツの物語の続編。前回の事件から半年、88歳になり、前回脚を撃たれたために、妻と一緒に介護ケアの施設に入った。そこに、45年前の現役刑事時代から追いかけていた大泥棒が助けてくれとやって来る。すでにその設定もぶっ飛んでいるが、歩行器…

ささやく河

続けて伊之助のシリーズを読んだ。面白いのだ。今度の話は、島帰りの男が殺されるところから始まり、次第に20年前の押し込み強盗へとつながり、さらにその事件の陰にあった殺しが明らかになる。今回もハードボイルド小説の真髄が入っている。たった一人で、…

消えた女

主人公の伊之助は木版画の彫り師。だが、元は腕利きの岡っ引きだ。かつて岡っ引きの先輩だった弥八から、娘探しを頼まれる。彫り師の親方に睨まれながらも、夕刻には一人だけ仕事場をあとにし、弥八の娘およう探しに奔走する。伊之助はたった一人で聞き込み…