Life and Pages

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号泣する準備はできていた

ずっとタイトルが気になっていた小説だ。最近、この作家の対談を読んで、英語の直訳をタイトルにしたものだと知る。いいアイデアだ。内容は女性が主人公の短編集。彼や夫との関係性が変わっていく様子を描いている。主人公は関係が変わったとき、変わったこと、に敏感に気づく。クローズアップレンズで、自分の気持ちの変化を冷静に観察している。そして自分が気がついたことを、時にはストレートな言葉として口に出し、時には内面にとどめる。どちらになるかは相手との関係性による。
繊細な感覚は女性だけのものではない。相手の何気ない一言が、あるいは軽く放おったつもりだった一言が、胸の奥にずしんとぶつかる。平気なそぶりをするにしても、感情を出して泣いたり起こったりしたとしても、胸にはその言葉がつけた傷が残る。すっかりそのことを忘れていても、あとで痛みを感じることがある。大人的態度として推奨されているのは、相手のうっかりミス(ということに解釈して)を大丈夫だよと受け流すことだ。高校野球死球を受けたバッターのように。でも、そうではないのだ、本当は。ケンカをしたり、泣きわめいたりするのは各自で選択するオプションだが、関係の変化や、投げかけられた言葉による影響は、しっかりと自覚した方がいいのだ。そうすべきなのだ。そんなことを思った一冊。

号泣する準備はできていた (新潮文庫)

号泣する準備はできていた (新潮文庫)