Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

コンカッション

アメリカン・ドリームは、野望を携えたものと、アメリカで生きることを選ばざるを得なかったものに寄って支えられている。後者であった主人公のベネット・オマルは、ナイジェリアからやってきた医学生だ。教育を受ける権利、能力主義、発言の自由。時折つきつけられる人種差別的な偏見に戸惑いながらも、彼にとってアメリカは希望の国。解剖のプロとして才能を開花させていく。だが彼の純粋な科学的探究心と正義感が、アメフトの選手がプレー中の脳震盪(コンカッション)のせいで、脳に大きな影響を受けていることを突き止めた時、巨大な力が彼に襲いかかる。ビッグマネーが動く既得権の構造を揺るがすことになり、様々な人々の思惑が彼を追い詰めていく。アメリカが今も白人社会で、金儲け主義で、言葉による説得社会であることを、権力に絡め取られた人々が全力で誇示するのだ。
この本を原作とした映画が作られたアメリカ社会の自由さは素晴らしい。その映画がヒットしなかったことはアメリカ市民の一般的な感情、考え方に基づくものだろう。そして日本で公開されなかったことは、興行的な判断だけなのかどうかはわからない。
アメリカンフットボールを知る日本人は増えたが、その内情までを知る人はほとんどいないだろう。現代のアメリカの語られざる一面を浮き彫りにする本書は、読み進むほどにストーリーが加速していく感じが心地よい。とても読みやすい。

コンカッション (小学館文庫)

コンカッション (小学館文庫)