Life and Pages

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消えた女

主人公の伊之助は木版画の彫り師。だが、元は腕利きの岡っ引きだ。かつて岡っ引きの先輩だった弥八から、娘探しを頼まれる。彫り師の親方に睨まれながらも、夕刻には一人だけ仕事場をあとにし、弥八の娘およう探しに奔走する。伊之助はたった一人で聞き込みをし、昔のつてを使い、時には柔術を使って真実に迫る。ストイックで一人だけで立ち向かうその姿は、解説で長部日出雄が書いている通り、ハードボイルド小説の私立探偵そのものだ。十手すらもたない元岡っ引きは、ライセンスをもたない探偵と同じ境遇だ。豪商と役人、やくざもの、悪所に売られた女。時代小説の枠組みの中で、ハードボイルド小説を書ききる藤沢周平の力量に改めて感服した。

消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)

消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)