Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

もう過去はいらない

バック・シャッツの物語の続編。前回の事件から半年、88歳になり、前回脚を撃たれたために、妻と一緒に介護ケアの施設に入った。そこに、45年前の現役刑事時代から追いかけていた大泥棒が助けてくれとやって来る。すでにその設定もぶっ飛んでいるが、歩行器を押しながら、ジャケットの下にマグナム銃を吊り下げて出かけていく姿は、凄いのだか滑稽なのかわからない。だがやってくれるのだ、今回も。
ユダヤ教徒が迫害に遭っていた頃の悲惨さは私には想像もつかないが、家族がナチに殺され、自らも兵士としてナチと戦い、アメリカ国内でも迫害を受けてきたことが、シャッツの行動原理を創りだした。自らと自らの家族を守るため、武器を持ち出す。その姿は、アメリカという国家の行動原理とも重なる。エンターテイメントのジャンルの小説であっても、社会派的な色合いが入ってくるのは、著者の現代アメリカに対する厳しい眼差しのせいなのだろう。ぜひ続編を読みたいシリーズだ。

もう過去はいらない (創元推理文庫)

もう過去はいらない (創元推理文庫)

主人公はメンフィスに住む87歳の元殺人課刑事。バック・シャッツ。いつでも357マグナムとラッキーストライクを手放さず、発する言葉は皮肉いっぱいだ。第二次世界大戦時、収容所で自分を殺そうとしたナチの残党が生き延びていて、しかも当時盗んでいった金の延べ棒を持っていると知らされた。その話を聞きつけた町の連中が金目当てにやってくる。シャッツは金よりも、ナチの野郎を仕留めようと孫の運転する車で出かけていく。
ダーティハリーばりの、罵詈雑言とマグナム拳銃を振りかざすのは87歳の元刑事。新しいヒーローの登場だ。ハードボイルドでもあり、警察小説風でもあり、ただの正義漢ではない。ユダヤ教徒の誇りと家族の恨みを胸に、自らの行動原理で突き進んでいく。おもしろかった。作者の皮肉な視点は、テレビのコメンテーターにも、シナゴーグの牧師に対しても平等に注がれている。やはりベストセラー作品は読んでみる価値があるなと再認識した。

もう年はとれない (創元推理文庫)

もう年はとれない (創元推理文庫)