Life and Pages

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エデュケーション 大学は私の人生を変えた

こんなことが本当にあるのだろうかと読み終わった後も信じられない思いだ。しかし、これは著者がたどってきた人生の真実の話だ。

タラは、アイダホ州でサバイバリスト(こういう言葉があるんだね)の両親のもとで生まれた。子どもたちは出生届けさえ出してもらっていない。政府、病院、学校にかかわらずに、自分たち家族の力で生きていこうというのが、父親の考えで、母もまた同調し、子どもたちはそういうものだと思って学校に行かずに、父の仕事を手伝っている。その仕事とは、廃材集積所から売り物になりそうなものを外して、売りに行くこと。巨大な金属の塊を壊す機械に子どもたちが挟まれてケガをしても、一家で出かけた帰りに自動車事故を起こして、母親が脳に損傷を受けても、そして父親本人が解体中の車のガソリンを浴びて引火し、大やけどを負っても病院に行くことはない。なぜなら、神が治してくれるからと信じているからだ。

兄弟姉妹たちは、家を離れるものもいたが、兄のショーンはタラを虐待する。タラはどこかおかしいと思っていても、家族なんだし、悪いのは自分に違いないからと必死で思い込む。それでも、家を離れて家族で初めて大学に行った兄の影響で、自分も大学へ行こうとし、独学で大学資格試験に合格。ブリガム・ヤング大学に入学する。そして、サラは才能を開花させ、ケンブリッジ、ハーバードへと進むことになるのだが、父親にすり込まれた考えにひきづられ続ける。

父親は学校という場所は悪魔の手先がいるところで、おまえは間違った道を進んでいると言い続ける。サラは、新たに得た知識をもとに、これまで家庭で学んだことは違っていたと頭では気づくのだが、家族の絆を断ち切る事ができない。学期の休みには家に戻り、家業を手伝うのだが、その時もショーンに虐待される。それでも、それは夢なのだと思いこむようにしている。先に家を出た姉から連絡を受け、父親に真実を、ショーンにされたことを話そうと持ちかけられるが、その姉も、父親とショーンによって言いくるめられ、間違っているのはサラだと言うようになる。誰も家族の呪縛から逃れられない。そして最後の最後に、博士論文を書き終える頃、ようやく真実と向き合うことにして家族と距離を置いた。

この本を読んでいて、タイトルのせいもあって、ひどい境遇で育った主人公が教育を受けることで、真実を知るようになり、幸せになっていくのだと思っていた。だが、生まれた頃から、社会と切り離されて、まるで司祭のように自らの考えだけを家族に押しつける父親から受けた教育は心に染みついていて、現実を見る事がなかなかできない。そうなのだ、学校の教育の力の物語だけではなく、家族から受けた教育の力の話でもあった。