Life and Pages

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映画 コーダ あいのうた

今年のアカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を獲った話題の映画で、とてよかった。聴覚障害者の役を本当に聴覚障害を持つ俳優が演じているのだが、その演技力は素晴らしい。リアリティということ以上に、私の胸に迫るものがあった。

タイトルの「コーダ」というのは、聴覚障害者の両親を持つ子どものことだという。両親と兄は聴覚障害者なのだが、家族で唯一の健聴者が高校生の娘のルビーだ。この一家は漁業を生業としていて、ルビーは早朝から父と兄とともに一緒に漁にでていて、さらに無線の応答や仲買人たちとのコミュニケーションを手話通訳者としても支えている。港の仲買人たちは、父親が耳の聞こえないのをいいことに魚を買いたたく。ルビーはそのことを父に伝えるが、父は諦めてしまっている。

漁を終えてから登校するルビーは授業中も居眠りしてしまい、クラスメートからも浮いている。それでも、歌うことが好きで合唱クラブに入り、その才能を先生に見いだされる。そして、一生、家族の通訳として生きていくことが自分の人生なのだろうかと考えはじめる。家族は皆仲が良く、お互いに思いやりを持っている。そして、いったんは自分の夢を諦めかけるのだが・・・。

ルビーを演じたエミリア・ロッシの歌声と演技が素晴らしい。そして、父親役のトロイ・コッツマーの表現力。母親役のマーリー・マトリン、兄役のダニエル・デュラントも素晴らしい。映画の途中、聴覚障害を持つ人たちの世界を追体験するような仕掛けも、とても良かった。こうした障害は他人事ではないと、普通に思えるし、ほんの少しの時間かもしれないが、立ち止まって考える時間がもてたことはとても良かった。芸術というのは、本当に必要なものだと思う。不要不急だなどと、政治家に言われても、自分のことは、自分の心は、自分で守らなくてはいけない。映画も音楽も文学も人間には必要なものだ。そして、もちろん自由も。

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