Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

ある男

夫が不慮の事故で亡くなり、妻はそれを会ったことのない、夫の兄に伝えた。弔問に来た兄は、死んだ男は弟ではないと言う。では、私の夫は誰なのか・・・。なんとも上手い設定で、ページをめくらせる。

真相を知った後、妻は、三年半の幸せな夫婦生活をどう考えていいのかと戸惑う。自分が結婚したはずの姓名の男ではなかったにしろ、その日々の愛情のやりとりはまぎれもない事実だ。この事件の真相究明に、妻の知り合いの弁護士が探偵役で登場する。小説の主人公は彼だ。その彼も事件を追いかけながら自らの人生を考える。途中でさりげなく妻の秘密に気づいたことを臭わせるが(読者はとっくに勘づいていた)、おおごとにしないですませてしまう。白黒つけないことは人生には往々にしてあることだが、この弁護士の性格を考えると、さもありなんということだろうか。愛とは、幸せとは、生きるとは何かを考えさせられる。

平野啓一郎はデビュー作を読んでみたが、三島由紀夫的な美文の作家なのだなあと思ったけれど、自分には関係のない物語だったので、それきり読むこともなかった。今回は読書会のために読んだのだが、上手に組み立てられている物語だ。

戸籍交換は貫井徳郎の小説にも描かれているが、この本は謎解きよりも、ストーリーの先を知りたくなる。この本はとても売れているようだ。なにが人々を惹きつけるのだろう。登場人物に悪人は登場しない。どこにでもいる人のようだ。そして、他人の人生を生きることを願望のように思う人がいるのかもしれない。

ある男

ある男