Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

戦友の恋

書評家の北上次郎氏に勧められて、読んでみた。女性ふたりの友情の話なのだが、冒頭から、一人の女性はすでにこの世にいないことがわかる。残された主人公が、思い出を語る「戦友の恋」という短編を含めて六編の連作だ。主人公はマンガの原作者であり、すでに失われた友人はマンガの編集者。ともに戦い、作り上げてきたものが主人公の回想から浮かび上がってくるのだが、たしかに二人の関係は戦友といっていいものだ。

登場人物は誰もが個性的で、造形がしっかりとしていて、それでいて書きすぎていないし、うわついていない。上手な作家だ。北上氏の解説によれば、これはヒロイン友情小説というジャンルの作品であり、佳作が多いという。そして、この連作に共通して流れているのは、大切なものを失った痛みと悲しみと切なさ。そして大切な人がもういない世界で生き続けようとする強い意思と、こんちくしょうという不条理な思いを抱えながら、前に進もうとする力。その姿勢に勇気づけられる。

「消えてしまったと思った人がまだそこにいるのなら、まだそこにいるうちに会いたい」「喪うことに慣れてしまったからといって、喪う前に放棄してしまっていいわけではない」この行を読んだとき、切なさがこみ上げてきた。たくさん喪ってしまったからこそ、今の一日の重さに気づく。さよならだけが人生だと言った人がいたが、それは悲観だけでなく、そんな現実と向き合うために自分に言い聞かせる言葉なのではないか。そんな気がした。

 

 

もつれ

ポーランドを舞台に検察官シャツキが活躍するシリーズの一冊。邦訳は三作目が先に出たが、シリーズとしてはこちらが一作目になる。私立探偵でも刑事でもなく、検察官が捜査に乗り出すという設定は、最近では定番の一つだ。

心理セラピー参加者が死体で発見される。セラピーの影響で自殺したのか。それとも殺人事件か。捜査のプロセスで、ポーランドの歴史が関わってくる。主人公の検察官は仕事のストレスのはけ口を浮気相手に求めようとする。そして正義や正論ではないことを許さなければならなくなり、家族の命を心配し・・・。

現代のリアルは、切なく、身につまされながら、最後のページをめくることになる。スッキリした読後感はないが、そういうこともあるかもなと思う。ポーランドの話だし。ミステリー小説は(おそらく)進化し、読者もまた、さまざまな楽しみ方を学んでいく。そんなことをなぜかしみじみと思った。

 

もつれ (小学館文庫 ミ 3-3)

もつれ (小学館文庫 ミ 3-3)

 

 

10年後の仕事図鑑

 AIが進化したおかげで、人間の仕事が奪われるという記事が昨年くらいからよく新聞や雑誌で見かけるようになった。この本でも、今後なくなる仕事について言及しているが、脅しではない。むしろ、びくびくしながら生きていく必要はないと言っている。お金よりも個人の信用が重要になる。これまでの常識が通用しない世界がやって来ている。自分の好きなことを突き詰めて突出しろ、と語りかける。趣旨はよくわかる。そうだよなと思う。ホリエモンと落合さんはあまり接点がなさそうに思っていたが、根本的な考え方のところで共通するものがあるようだ。

10年後の仕事図鑑

10年後の仕事図鑑

 

 

おいぼれハムレット

題名の通り、あのお話の頃を過ぎて、老いさらばえたハムレットの話、後日譚風なお話というから、こんなことをそもそも書ける人がいるのか、てなことを思いまするが、いややはり、橋本治の仕業でありました。と、いつのまにかこっちまで落語風になってしまうのも、これは、橋本治がひとりこつこつと打ち立てようとしている、落語世界文学全集の第一巻だからでした。換骨奪胎には違いないけれど、ハムレットだけではなく、シェイクスピアの世界観を自分なりにしっかりと掴んでいて、落語の構造も言葉も知っているからこそ、できる芸。ハムレットという名がずっと受け継がれているという西欧王族的監修を生かして、先代、先々代が1箇所に集まり、しかも年齢のせいでぼけているから、どのハムレットのことを射しているのかわからず話が面倒くさくなる。そんなところに落語のネタになりそうなものを感じたのかもしれないねぇ。解説も後書きも、大サービスで本当にこの作家は大好きです。

 

おいぼれハムレット (落語世界文学全集)

おいぼれハムレット (落語世界文学全集)

 

 

映画 ボヘミアンラプソディー

音楽を題材にした映画は、本当に外れない。俳優はみんな、クイーンのメンバーによく似ていた。でもそれだけじゃない。みんな本当に音楽が好きで、アイデアを出し合って、バンドとして成長してきたのだ。

フレディは、愛する人と自分の才能を開花させる土壌としての音楽、その両方を早々と手に入れる。バンドは成功し、彼女とも上手くいっていたのだが、それだけでは物足りなくなったのだろう。バイセクシャルの道へ踏み出す。しかしグッドフレンズは、愛を与えてはくれない。気がついたとき、彼にはあまり時間がなかった。それでも、いや、それだからこそ、彼の歌は人々の胸に深く届く。人と人をつなぐ。歌の力はすごい。人間が達成した、素晴らしい創造物だ。

最後のライブエイドのシーンは本当のコンサートを経験しているかのようだ。近頃はコンサートでも、生の演奏の音を聞きながら、ライブ映像をスクリーンで見ることが多いいから、実際のコンサートよりも、ライブ感を味わえたのではないだろうか。We will rock you. そして、We Are the Champions. CDで聴いているのとはまったく違う歌に聞こえた。魂を揺さぶられるような歌だった。

www.foxmovies-jp.com

出世する人の英語

 この前、仕事で参加したセミナーで、地球温暖化対策のことが取り上げられていた。これからの企業は、どれだけそうした対策を考えているかが問われてくるという。そして、欧米の企業は、「こんな方向に向かって努力する」的な方針や方向性の表明だけで会社のビジョンとして発表するそうだ。高い目標を掲げ、それに向かってチャレンジすることに意味があるらしい。一方、日本の企業は、本当にできることを考えた上で、「これとこれだけはやります」的な発表になると言う。なんとなく、その違いは感じていたが、そういうものなのだ! と、この本を読んで納得。言葉の壁と思っていることは、文化の壁のようである。

出世する人の英語 アメリカ人の論理と思考習慣 (幻冬舎新書)
 

 

仕事にしばられない生き方

 ハリガネムシに寄生されたカマキリは、自分の意思とは関係なく、ハリガネムシの産卵場所の水中に飛び込まされてしまう。借金に追い詰められた、かつてのパートナーもそれと同じだったのではないかと分析する。この人の人生は波瀾万丈で、世界中で暮らしてきたから、その視点もスケールが大きい。日本の社会のさまざまな理不尽さは、そういうものだ、と思って取り込まれて行くのではなく、おかしいことはおかしいと判断し、自分なりに対処していくことが大切なのだと感じた。むろん、そんなことをすれば世間の風当たりは強くなるし、会社にもいられなくなるかもしれないが、無理して合わせるよりはずっといいのだと、この人の人生が裏打ちされた文章によって、頑張ろうという気になってくる。本屋で見かけて、手に取った本だが、今の自分が読みたかった本だったと改めて思う。