Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

女のいない男たち

映画ドライブマイカーの原作となった短編集だ。映画を観たあとに読み直してみた。たしかに、あの映画はこの小説集の世界観をうまく表現していたなと思う。それでも、小説を読んでいるとき、わたしの頭の中にある主人公は西島秀明ではない。あたりまえだ。映画では淡々とした時間を生きているような役だったが、私の頭の中の主人公はもっと淡々としていたかな。いや、どっちがいいというものではないが。声も西島さんではなく、村上春樹本人でもなく、もっと普通の青年の声音がわたしの頭の中で聞こえていた。

小説と映画を比べると、小説のほうが当たり前だけれど、ずっと自由で、ずっとおかしな出来事が平気で成立する。映画は文章で描かれたものを命あるものにして、ビジュアルに表現しなければならないのだから大変だ。だから、小説と映画を比較してもあまり意味がない。異種格闘技のようになってしまうし、最強を決める必要もない。小説では内面を描くときに独白のような方法が使える。映画では、誰かを相手に自分の想いを口にするほうが自然だ。今回の映画も、とても映画的な最終シーンでとても良かったと思う。小説では日常の風景の中のシーンのまま短編が終わる。読後にずっと、その世界の余韻が漂っている。そこからまだ物語を続けることも出来るのだろうけれど、そっとその場を立ち去るのも素敵な終わりかただ。

小説を読み慣れていると、アナログの音楽ブレイヤーのように、主人公の姿と声が頭の中に再現される。姿までも想像できるのだが、ビデオデッキでもなく8ミリ映写機でもなく、私の場合はレコードプレイヤーくらいの機械が小説を再生しているような感じがする。