Life and Pages

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異人たちとの夏

30年以上前の小説だ。あの頃読んだはずで、今回は再読になる。あっちの世界とこっちの世界がリアリティを持ってつながる、不思議な世界が描かれる。読後にしばらく余韻に浸っていたくなる、心地よい時間だった。

主人公は40代のシナリオライター。別れた妻に自宅もとられ、仕事場にしていた環八沿いのマンションで寝泊まりするようになる。ふと思い立って、子供の頃に住んでいた浅草に足を伸ばす。寄席に入ってみると、父親とそっくりの男がいる。彼が12際の時に両親は交通事故に遭って死んだのだが、その当時の父と姿形そっくりだ。家に誘われ、ついていくとアパートの一室には、母親とそっくりの女性がいた。

何度かその家に通うになるが、ちょうど同じ頃付き合いはじめた女性から、どうしてそんなにやつれているの、と心配される。自分ではまったくわからないのだが、どうやら父母と会っていることが原因かもしれないと思いはじめる。もう行ってはいけないのだろうか。そしてついに父母に別れを切り出し・・・。

お話はさらに二転三転するのだが、この世の存在ではない父母とのやりとりやその存在の仕方がとても自然で、そういうこともあるかもなと思わせる。シンだ父母にまた会えるなら、少しくらい生気を抜かれたっていいかもとまで思わせる。主人公も最後に「どうもありがとう」と言うのだ。映画にもなったが、こういう現世と彼岸の際のストーリーに引きつけられる。内田百閒のツィゴイネルワイゼンもそうだ。村上春樹もそうだ。陰陽師もそうだ。ホビットの国もまた、此岸と彼岸の際にある。

異人たちとの夏 (新潮文庫)

異人たちとの夏 (新潮文庫)