Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

紙のライオン

久しぶりに沢木耕太郎の本を読んだ。朝日新聞で、映画についてのコラムを読んでいるが本は読んでいなかった。ずっと以前、貪るように読んでいたのは「深夜特急」にはまったからだ。あの頃、私の回りの二十歳前後の若者は、はまっていたのだ、あの熱い風に。あの本を読んで、同じルートをたどった友人はいなかったが、アジアや中近東へ出かけていったものは何人かいた。たとえ、ツアーで出かけた韓国であっても、自由時間に市場の路地裏をじっとのぞき込んだ者は多かったと思う。怖さよりも、好奇心が勝って、そこでの生活やその先で起こるかもしれない冒険譚を夢想していた。当時は、沢木のことを自分たち世代の集団自我を鋭い筆致で書き進める、我らの代表のように思っていた。今回、沢木の文章と再会したのは、ノンフィクションのスタイルを学ぼうとしてのことだった。以前、まんまと乗せられていた技巧がそこに見える。それは、決して、彼の文章を否定するものでもないし価値を下げるものでもない。むしろ、自分の中にこもった熱に浮かれないようにしながら、その熱気を伝えようとする筆力にあらためて感心している。しばらく、沢木の本を読み進めようと思う。あの頃より、少し冷静な頭で、あの頃の熱い風を感じながら。風はまだ吹いているからね。