Life and Pages

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その雪と血を

いきなり、殺し屋が相手を殺した後の描写からはじまる。白い雪の上に赤い血がひろがる情景がなまなましい。殺し屋はちょっといかれていて、ボスの雑用など細かな仕事はできない。だが、手口は大胆で死を恐れないから、殺しの仕事を引き受けている。打算はしないが、自分の思ったようにしか動かない。たとえボスの命令であっても。
聾唖の女を助けたいと思い、彼女を街に立たせていた男を殺した。そして、ときどき、彼女が働くスーパーに様子を見に行く。それだけで彼は幸せだ。ボスから次の仕事の依頼があった。ターゲットはボスの女。訳ありと思って女を見張りに行くと、驚くほどの美人。惚れてしまった。その女を助けるために、いつも女を訪ねてくる男を殺そうと決めた。そいつが殺さなければならなくなった原因に違いない。ところが、そんなに簡単な話ではなかった。
久しぶりのポケミスで、これは薄い本だった。中だるみがなく、最後まで一気に読ませる。撃たれた時の描写が、本当に痛そうだ。血がどくどくと流れるのも感じる。殺し屋は自分が撃たれたとき、ああ、そうきたか、と淡々と受け止める。生に執着がない。何にも執着がない男だ。最後のシーンも真っ白な雪と真っ赤な血の色が象徴的だ。一面の雪が死という生々しい出来事をファンタジーのように仕立てあげている。
この本は今年の翻訳ミステリー大賞に選ばれた。原題はBLOOD ON SNOW 原題もいいが、邦題もなかなかのタイトルだ。