Life and Pages

本や映画、音楽、日々の雑感

ミステリマガジン700海外編

この本にはミステリマガジンの第1号から700号まで、58年間に掲載された小説の中から単行本未収録作品に限り、編者の杉江氏が選んだ16の作品がまとめられている。ずいぶん古いものもあるのだが、どれも面白い。いい作品は古びない。「犬のゲーム」では、犬に感情を投影した主人公の話。犬と長く暮らしていると、思いが伝わっている気がする。そうした経験がある人はみな深く頷きそうなストーリーだ。「リノで途中下車」ではなけなしの金を妻が眠っている間にカジノで使う男の話。そんなことをしたら明日から生活に困るというぎりぎりの暮らしなのに、頭の中で理屈をこね、その場の出来事を思い込みによって増幅して正当化し、自分の内なる声と対話しながらチップを置いてしまう。ばかだなあ、と思いながらも、さまざまな事象を都合良く解釈して、自分の行動を正当化するプロセスは、ギャンブルに限らず誰もが経験する葛藤だ。片思いの相手の歓心を買いたいとき、旅先で道に迷った自分を正当化するとき、失敗を運命のごとく再解釈しようとするとき。その心の葛藤が凄くよく書けている。ロアルド・ダールの小説のようでもある。