Life and Pages

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イタリアン・シューズ

フレドリック・ヴェリーンはかって医師だったが、本人が言うところの大惨事(カタストロフ)のせいで仕事を辞めて、子どものころ家族と暮らしていたスウェーデンの小さな島で一人暮らしをしている。犬と猫がいるだけで、その島には他に誰も住んでいない。郵便配達人が舟に乗って定期的にやって来るが、挨拶を交わすだけで一度も家に招いたことはないし、来客はまったくない。それなのに、冬のある日、家の前の凍った海の上に一人の女性が倒れていた。フレドリックは救出に向かう。それはかつての恋人で、彼が37年前に黙って彼女の元を立ち去って以来の再会だった。

かつての恋人ハリエットは「人生で一番美しい約束を果たして」と迫る。彼女は余命幾ばくもない病気に冒されていた。その約束とは、彼が幼い頃に父親と出かけた湖を彼女に見せること。本当は何が望みなのだろうかと訝りつつ、フレドリックは彼女をつれてその湖に向かう。すべてを拒絶して、世捨て人のようにこの島で12年間暮らしてきたフレドリックの人生が動き始める。そして、彼の人生の謎を解き明かすように、さまざまな女性が登場する。

ミステリー作家として知られるヘニング・マンケルの、ミステリーのような、恋愛小説のようなストーリー。タイトルのイタリアン・シューズは、ハリエットが靴屋に勤めていたことがきっかけになって、物語の最後にも関わってくる。『足に合わない靴は(いつまで待っても)合わない』『靴が足に合うとき、人は足のことを考えない』といったことばも出てくる。

過去を振り返るとき、30歳は30年分を、そのときの自分にとっての意味合いとして解釈する。60歳なら60年分を、そのときの視点から解釈する。過去に起こった出来事は変わらないのに、解釈が変わる。自分の思いが変わるし、文脈が豊かになっているからだ。老化も思考に影響を与える。自分が終わらせようと思っているようには人生は変わらない。それは、それほど悪いことではないだろう。

イタリアン・シューズ

イタリアン・シューズ